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□1)年下の男の子
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「好きな人ができました…」



お昼の時間。目の前の友人の際は、きょとんとパンを頬張る口を止めた。




「え!?今なんて!!」

「だ、だから…好きな人ができたの…

「誰…!?」

「…」

「うちのクラス?」


私は首を横に振る


「何組?」

「…あの、」

「ん?」

「2年生…なの」





「えええ、年下ぁあ!!?」


「際!声が大きい!!」




幸いココは図書館の司書室。

際が図書委員なので時々利用するんだけど、今日はこの話をしようと思って教室を避け屋上を避け、

あえてここに昼食を食べに来たのだ。

あらかじめ場所を移していて正解だったな…




「後輩ったって、あんたの部活女子しかいないじゃん」

「部活じゃないもん」

「部活以外で後輩と接点あるの?」

「い、委員会…」

「ああ、報道委員…だっけ?んで、誰々?私が知ってる人?」

「…日吉…くん」

「ひよし?苗字は?」

「あ、苗字が日吉。下の名前は若」

「ひよしわかし…へぇ…なんか時代劇みたいな名前。知らないなぁ…」

「だと思った。」

「部活は?」

「テニス部」

「え゛…テニス部って俺様跡部様の??」

「そう。今は準レギュラーなんだって」

「へえぇ。結構すごいんだね」




際とおしゃべりしていると、カウンターのほうから声がした。


『すいません!』



「!」

「はーい!あ、唯厨、ちょっと待っててね」

「あの、際っ…」



今の声…もしかして



際が秘書室のドアを開けてカウンターへと足早に行く。

どうやら本の貸し出しのようだ。

私は秘書室のドアを少しだけ開けて、すぐ目の前のカウンターをこっそりと覗いた。




…やっぱり!日吉くんだ…

今日は薄いブルーのベストを着ている…さわやかだなぁ




「えーと、2冊ですね」

「はい」

「じゃあ学生証をお願いします。」



学生証を受け取り、カウンターの機械で何気なく読み取る際。

気づくかな…普段いちいち借りる人の名前なんてチェックしないはずだけど…

いつもの作動でパソコンに写る貸出状況を見て、際は目の前の人をがん見した。



「日吉くん…ですね」

「そうですが…何か」

「いえ、別に!貸出期間は2週間です」



際が本を差し出すと、受け取りながら眉間にしわを寄せて明らかに際に疑心を抱いた様子を見せ、

踵を返して図書館出口へと向かっていった。

私がさっきよりも顔をぐいと出しながらその後ろ姿を眺めていると、

急に際がぬっと顔をだしてきた。



「わあ!」

「あれが‘ひよしわかし’くん?」

「…う、うん。よく気づいたね」

「そりゃあ、『妖怪大図鑑』と『学校七不思議・改訂版』を二冊同時に借りる人…誰だよって思うじゃん」

「あははは…でもさわやかだったでしょ…?」

「えー……陰気くさい」

「な!」

「愛想がない」

「…(それは認めざるを得ない)」

「どこが好きなのかまったく理解できない」

「際ちゃん…(泣)」

「でも几帳面で育ちが良いと見た」

「うんうん。なんでわかったの?」

「ちゃんとバーコードの向き揃えてくれたし、学生証もちゃんとこっちに向け直して出してた。」

「へぇ…」

「まあ、私の好みはさておき、唯厨の好みが昔から変わってるのは知ってるし。唯厨が好きになった人なら応援してあげよう!」

「ほんとぉお!?」

「ただし、ちゃんと報告すること。あと、途中であきらめないこと!」

「うん!頑張るね!」



でもこのとき私は、「頑張る」ことがどういうことなのか、具体的に何をどうすればいいのか全くわかってなかった。

ただ、際に話したことによって、自分の中だけで悶々としていた日吉くんへの思いが、

はっきりとした「好き」に変わっていったのを実感した。

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