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テニスコートに着くと、ちょうど部活が終わったところだった。
終わったと言っても、一応部活終了時刻が来て一区切りをし、各自解散をするだけで、多くの部員は自主練のためまだ残っていた。
今来たばかりの長太郎は、これから今日のメニューをこなすという。なんだ。委員会があって、部活休めてラッキーというわけじゃないんだ。大変だな…
長太郎と分かれて、一人、コートのわきっちょの芝生に座って宍戸を待つことにした。猫を芝生に降ろすと、しばらくじっとこっちを見ていたが、やがて芝生に跳ねまわる小さなコオロギとかバッタを追いかけ始めた。目の前のやつに次々ととびかかって遊んでいる。
こうして宍戸を待つことは多々あるけど、別にいつも場所を指定していない。時にはギャラリーだったり、図書館だったり、校門だったり。ただ待ってるのもつまらないし、いつも同じパターンてのも飽きるのでいろいろ場所を変えてみるんだけど、なぜか宍戸はすんなり探し当ててくる。なんで?
猫が虫たちに夢中になってる間に、近くの茂みから猫じゃらしを持ってきて猫の顔の前をチラつかせた。すると、目の色を変えて食いついてきた。
「ワリィ、遅くなった!」
猫とのじゃれ合いに夢中になってて、声をかけられて顔を上げると、制服を雑に着たまま小走りにこっちに向かってくる宍戸がいた。
「あ、宍戸。お疲れ」
「おう、待たせたな。行くか」
「うん」
私は立ち上がって、また制服をパンパンと掃った。スカートについていた芝生が軽く舞う。それから鞄をかけ直して屈んで猫を抱きかかえた。
すると宍戸が不思議そうに猫に指さした。
「?そいつ、連れてくのか」
「うん」
「飼うのか?」
「うーん…わかんない」
「わかんないって…なんだそりゃ」
「うーん…」
「まあ、とりあえず学校に放置しとくわけにもいかねぇし。連れて帰っぞ」
「うん」
−−−−
「そういや、長太郎に会ったんだってな。」
「ああ、昇降口でね」
「久々に唯厨先輩に会えた!ってうれしそうに報告してきたぜ、長太郎」
「あの子は年中うれしそうにしてるよね。」
「それだけ、お前に会えるのがうれしいってことだろ」
「うーん。なんか大きなわんこに懐かれた気分だよ」
「今さらだろ」
「うん、まあね」
帰り道。宍戸との間に流れる空気は、やっぱりいつもと違っていた。嫌な空気ではないんだけど、ちょっとお互いに静かすぎる。
宍戸は割といつも通りにしてるように見えるんだけど、やっぱり私がさっきの屋上でのことを気にし過ぎているのかな。
いつもより言葉数は少ないけど、私たちだって一緒にいてもずっとしゃべっているわけじゃないし、黙って歩くのももはや苦ではない。
「コイツ…重たくなってきた」
「どーすんだよ、その猫」
「うーん…うち、お母さんがアレルギーだからどの道飼えないし、そろそろ森に返すよ」
「おー」
家の近くの神社の森の前でしゃがんで、猫を腕から降ろそうとすると、猫は急に声を上げだした。
「にゃあーにゃー!」
「!?」
「どした?」
急に大声で泣き出した猫に驚いて、宍戸も横に並んでしゃがんだ。
「にゃあー!」
「なんか急に鳴き出して」
「お前、懐かれたんだろ」
「ど、どうしよう…」
「…」
「でも、うちじゃ飼えないし…学校にいた方がよかったのかな…」
「…」
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