short stories

□023:潤う
1ページ/1ページ




私はふと目を覚ました。

目の前には青い空と白い雲が一面に広がっている。




仰向けに寝転んだまんま伸びをして、腕時計に目をやると、4時間目の後半ごろ。もうすぐお昼の時間だ。

あー。まーたサボちゃった。

そんなことをぼんやり考えながら再びゴロゴロしていると、屋上のドアがきぃっと音を立てて開いた。

先生だったらヤバイ!ここは倒れたフリだな!死んだふり!

私はその人物がこちらに気付く前に、急いで打つむせになって腕をだらりとさせた。




「(さあ!来るなら来い!!!)」


「何やってんだよ、泌香」



聞き覚えのある、否、耳がインプットしている声を察知して、私はぐるりと向きを変えて再び仰向けになった。



「日吉!」


「またさぼってたな…まったく。」



日吉は立ったまま私を見降ろして、じっと顔を覗き込んだ。

日吉の明るい前髪が、さらさらと風に揺れて反射する。

ああ、今日も綺麗だ。

そう思って満足げに日吉を見上げる。



「お前、こんなところにいて、暑くないか?」



そういうと、日吉はペットボトルを取り出してグイと一口飲んだ。

ボトル表面の結露が垂れて、私の頬に落ちた。


「ひゃっ。冷たい」

「悪い。濡れたか。まあ暑いから丁度いいだろ」


そう悪びれもなく言い切る日吉。まあいいんだけどね。

そんな日吉に私は思いっきり腕を伸ばしてねだる。



「ねえ、日吉。」

「あ?」

「ん」

「?」

「ん〜」

「なんだよ」

「のど乾いた」

「ったく。」



日吉は私の横にしゃがむと、ほら、とぶっきらぼうに、先ほど自分が飲んでいたペットボトルを差し出した。

青い定番のスポーツドリンクだ。



「えへへ。ありがと」



寝ながら飲むとまた日吉に怒られるので、私は半身を起してそのスポドリを飲んだ。

あの独特の香りと冷たさが私の喉を潤す。私は味を堪能するように目を閉じた。

ああ〜美味しい!これが日吉がくれた、日吉が飲んだものだと思うと余計に嬉しいのはなんでだろう。潤いで全身が満たされる。このまま頭から浴びたいくらいだ。



「おい」



飲みながら、横目で日吉を見ると、何やら険しい顔でこちらを見ている。眉間にしわが寄っている。

ああ、綺麗な顔が台無し。



「なに?」


と口を離したときは、最後の一口を飲み終えた時だった。


「あ、」


口を離してからようやく気がついた。私ってば、全部飲みほしちゃった?



「ごめん、日吉。つい一気飲みしちゃったよ」

「の割にはごくごくと堪能してたみたいだけどな。」

「ごめんーー日吉ー。後で代わりのもの買ってくるからー」



このとーり!と顔の前で手を合わせてうんうん拝んでいると、さっきから、呆れてはいるがさほど怒ってない日吉は言った。



「別に、気にするな。その代わり…」



すると、いつの間にか私の正面にしゃがんでいた日吉は、顔の前の左右の手首をつかんで開かせて、じっと眼を見つめたかと思うと、





「ん…ふ」





いきなりキスしてきた。

余りの心地よさに、抵抗を忘れ、思わず声が漏れた程。

キスをしながら、ゆっくりと体重をかけてくる日吉。

倒れる!と想った直前にスっと首に手を添えて、さらに深く深くキスを堪能しながら、私の頭ををゆっくりと地面につけた。

私の顔の横に肘をついて、片方の手は髪を払い、頬に添えながら、角度を変えてもう一度深く、さらに優しくちゅっと3回程やって、

日吉はようやく顔を離した。

離したと言っても、彼の端整な顔はまだ目と鼻の先にあるのだが。




「甘じょっぱいな」




日吉は私の唇を指でなぞり、熱っぽい目つきでこっちを見つめている。

先ほどのドリンクの味が口の中で再び弾け、香りが鼻を霞めた。



「私、ファーストキスなんだけど…」



こんな濃厚で厭らしいファーストキスがあるのだろうか。

冗談ぽく嫌味を言ってやると、



「うるさい。先に奪ったのはお前の方だからな。」



と、これまた悪びれもなく答えて、再び顔を寄せてきた。



「ふっ!…ん」





息が荒くなり、呼吸が乱れる。

酸素を求める私に、それをさせまいとキスの波が押し寄せる。


せっかく潤ったのに、今は日吉を求めてからからなのである。










.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ