short stories
□002:空
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「日吉!今日1日、時間がある時はずーっと空見ててね!!」
朝練を終えて教室へ向かう途中、廊下の窓から半分身を乗り出して上を見ている泌香を見つけた。
落ちてからじゃ困るからとりあえずコッチ側に引っぱり入れてやると
ありがと といつもの笑顔を俺に向けた。
俺はこの笑顔がキライじゃない。
そしてその笑顔ついでにこんな事を言ってきた。
「日吉!今日1日、時間がある時はずーっと空見ててね!!」
いい天気だし!!と付け加えて、泌香は自分の教室へと走って行った。
泌香の言うことやることはいつも突然で、全く意図がよめない。
かといって決して俺に無理させたことはないからか、なんとなくつられてしまう。
俺が退屈している時が多いから丁度いいとも言える。
「空見ろ…か」
時間がある時、と言っていたが、HR前の今がすでに“時間がある”という状態だ。
とりあえず言われた通りに空を見てみると、見たこともないような青い鳥が2羽、右から左へと飛んで行った。
それから今日は風があまりないので雲がゆっくり動いていることを発見した。
「ふ。泌香にしては結構良いことを教えてくれたもんだ。」
ゆっくりと流れる雲のように生きられたらと、少しうらやましくなった。
それから俺が見たものは、
2台と少し遅れた、3台のヘリコプター
乱れがなく一直線に描かれた飛行機雲
誰かが手放した黄色と緑色の風船
“時間がある時”と言っていた泌香の言葉を思い出す時間が、意外とたくさんあることに気がついた。
忙しいと言いつつも、空を見る時間がないほど忙しくない俺は、世の中から見ればまだましな方なのかもしれない。
そう思ったら少し楽になれた。
それにたった、15年しか生きていないのに気がついた俺は、泌香がよく言う「幸せ者」なのかもしれない。
また泌香は不思議なやつだと実感した。
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