short stories

□日課
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「よいしょ、っと」

「唯厨さん…」

「なぁに?」





「痴女罪で訴えてもいいですか?」







 日課







誰にでも“日課”というものがある。
そこに愛が詰め込まれてしまった場合、
以下の様になる。







「チジョザイ…?ナニソレ」

「痴漢の女版です」

「へぇそんな人いるんだ!」

「ええ、ここに」

「あ…」

「(やっと気づいたか)」

「ごめん、日吉、女の子だったの?」

「…アンタです!!!」






どういう訳か、唯厨さんの最近の日課は、

“俺を観察すること”

だそうだ。





唯厨さんが部活を引退したからって、
俺がテニス部の新部長だからって、





部室に鍵かけて俺の着替えを目の前にスケッチブックを広げるのは、拉致監禁とでもいえようか。


とにかく俺の心は穏やかではない。
……いろんな意味で。




「セクハラ罪もありますけど…どっちにします?」

「だって私日吉のことさわってないもーん」

「触るだけがソレともいえないんですよ。」

「ブツブツ言ってないで早く着替えてよー」




着替えとは本来、人気のないところで行うことじゃないのか?しかも自発的に。
自分の彼女を目の前にして、言われるがままに服を脱ぎ始めるなんて、あきらかに、

立場逆転だ!



「ハァ…」



俺はここへきて、何度目かのため息をつきながら、結局、しぶしぶ着替え始めることになる。
どのみち着替えないことには帰宅できないのだから仕方ないのだが、なんだか腑に落ちない。

腑に落ちないのと渋々ながらいうことを聞いてしまう理由には、必要以上に上手い唯厨さんのスケッチにもある

自分が描かれているページをみて、思わず、きれいと言ってしまいそうになるほどだ。


……自分…なのにだ…


だから今回も、俺の着替えを描き写すことは、
美術的にはアリなんだろうけど、はたして俺は何でもないようなフリをしてこれからも唯厨さんのモデルのようなことを続けて行くのだろうか…



「日吉ほんと肌きれいだよねー」

「オヤジみたいなセリフですね」

「うん。モチ肌ってかんじー」

「人の話、聞いてます?」

「あー、ちょっと、その角度!キープ!!」

「!」



時々こんな風に不意打ちを食らって、その言葉のとおり、俺はそこから1ミリも動けなくなる。

そして、じっと…

唯厨さんの二つの黒い眼で俺の身体はじろじろと見られる。



「ハイ、動いていーよー。」

「はぁ…」


そりゃあため息もでるさ。



「できたー!」

「そうですか、それは何よりです。」

「うん。じゃぁ日吉、本格的に着替えていいよ。」

「そういう訳にもいきません。」

「へ?」



俺は自分が着替えを出していたロッカーから離れ、唯厨さんに近づく。


ガタッ


そして唯厨さんをそばにある机に押し倒した。


「まだモデルのギャラ、もらってませんから」


まだ完全に着替え終わってない俺は、制服のズボンに、ワイシャツが全開という際どい格好をしている。



立場返上、否、





下剋上だ…!





すぐに俺と同じ格好にしますからね。

覚悟しててください。









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