short stories

□さんぼーといっしょ
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「ここって…」


幸村くんに手を引かれながらやってきたのは…


「そ。生徒会室♪」



な…なんでいきなり生徒会室??



「幸村くんて、生徒会だったの!?」


「ううん。違うよ。まあ入ってみればわかるよ」




ガラガラッ




ノックもせずに生徒会室のドアを開ける幸村くん。い、いいのかなぁ…

…確かに会議らしい声も聞こえないけど…っていうか鍵空いてるんだ…





などと思いながらドアの前で入るのを躊躇していると、すぐに中から聞いたことのある声が聞こえた。




「ッ、精市…部活はどうした?」


「んーちょっとね。ほら、入っておいでよ!」


「誰かいるのか?」


「し、失礼します…」


「泌香…!」




中にいたのは、一人で椅子に座って書類と向かい合う、


柳くんだった。


そういえば、生徒会の書記だったな、柳くん。



「ここなら誰にも聞かれないし、今なら柳のデータ付き、だよ」


「精市…生徒会室はお前の私物じゃないんだぞ」




と柳くんは軽く幸村くんをたしなめると、ぱっとこちらに目を向けた。


思わず、一歩引いてしまう。




「フッ。そう怖がらずとも…大丈夫だ、泌香。大方、精市に無理矢理連れてこられたのだろう」



ふうとため息をついてそう言うと、柳くんは書類を置いてまっすぐこちらに歩いてきた。


「さあ、奥へどうぞ」


とさっきよりも何倍も柔らかい口調で私の背中を押して、片手でドアを閉めた。












二人にに促されて応接間のソファに座ると、隣に幸村くん、正面に柳くんが座った。



「さて………弦一郎と喧嘩でもしたのか?」



まだ何も言ってないのに、一発で当てられて、私は俯いていた顔をぱっと上げて目を見開いた。




「そしずめ、今日の部活を見に行くことでもめたといったところか」




私は言葉を失って、うんと頷くことしかできなかった。


どうして、分かるの…




「どうして分かるのか、とお前は思っているな」


「!」


「この一週間の弦一郎とお前のやりとりを見ていればわかる。特に弦一郎の態度をな」


「それなのに真田は、『テニスに興味のないものはコートに来るな!』って本気で怒ったんだよね」


「そ、それは…!それは、私が…」



それだけは、訂正しないと…!



「ほう。何かあったみたいだな。詳しく話してくれないか?」


「あの…」






私は放課後に起きたことを話した。

教室でのクラスメイトとのやりとり。

真田と話したこと。

そして私がしてしまったこと…



話している間も、真田のあの鋭い目が、そしてテニスコートへ向かう前のどこか淋しそうな眼が思い出されて、

私はまたじんわりと涙を浮かべていた。




「咄嗟に、思って、もないこと…言っちゃって…真田のこと、傷つけちゃって…」


「フッ…驚いたな」




そういうと柳くんはくつくつと笑い始めた。


幸村くんと、同じ反応…?


何故二人とも笑うのか、分からなくて眉をひそめてじっと柳くんをみた。




「いや、失礼。弦一郎に本気で怒鳴られて、平気でいられるどころか、逆に弦一郎の心中を案ずるとは。流石だな、と」


「ホント。健気だよね、唯厨ちゃん」



すると柳くんは胸元のポケットから小さな紙を差し出して、涙を拭くようにと言った。


なんだろうこの紙…ティッシュじゃないし、すごくいい香りがする…




「なるほど。だいたい話は分かった。あとは俺と泌香で話そう」


「…俺は?」


「お前は部活を仕切らなければな。その様子じゃ、弦一郎は使い物にならないだろう」


「えー…柳はどうするの?」


「俺はどの道この仕事が終わるまでは部活には行けない。それに、泌香にしても弦一郎にしても、今すぐに、はい仲直りというわけにもいかないだろう」



柳くんはサッと立ち上がると、応接室のドアに手をかけて幸村くんを促した。

幸村くんはしぶしぶ立ち上がり、ドアの方へと歩いていく。


「じゃあまたね、唯厨ちゃん」

「あ…はい」




二人はすれ違いざまに一言二言交わしていた見たいだけど、私には聞こえなかった。





「(とか言って、ちゃっかりデータとるんだろう?)」

「(フッ。絶好の機会だからな)」

「(唯厨ちゃんに手だしちゃダメだからね)」

「(無論だ。そのようなリスク、背負えるか)」

「(クスクス)」







「頼んだぞ、部長殿。」




最後にそれだけ言って、柳くんはパタンと扉を閉めてしまった。




「さて…と」


「柳くんて…」


「ん?なんだ?」


「…もしかして、テニス部で一番、その…強かったりする…?」




あの、さっき真田をぴしゃりと諌めた幸村くんを、いとも簡単に動かしてしまう…




「いや。一番強いのはもちろん精市だが。」




なにせ神の子と呼ばれるほどの実力者だからな、とにっこりとほほ笑んだ。

私が言ってるのは、その「強い」じゃないんだけどな…

なんだか意味をつかみ損ねて、かわされてしまった気がするから、それ以上は聞けなかった。




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