short stories

□愛の詩
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◇◇◇◇





「すまない。取り込み中…だったか」



しばらく黙認していた蓮二だったが、しびれを切らしたようだ。



「やあ蓮二、いらっしゃい」

「や、柳くん!?と、取り込み中じゃない!全然!私、帰る!」


泌香さんは勢いよく俺の腕からすり抜け、急いで荷物をまとめると病室を出ようとした。

出る直前に、またすぐに来てよ、と俺が言うと、「お、大人しくしてたら!!」

と真っ赤な顔をしたまま言って、ぴしゃりとドアを閉めて行ってしまった。


「まったく…あまりいじめるなよ」

「だって…いいじゃないか。普段大人しくしてるんだから」

「泌香唯厨か…。フ、興味深いな」

「え?蓮二…まさか」

「安心しろ。そういう意味ではない。実はな…」




蓮二は泌香さんに関する驚くべきことを教えてくれた。

俺が入院してから、屋上庭園の世話を泌香さんがしているというのだ。


俺は、自分が入院してから心配なことが二つあった。

一つはもちろん部活だが、こっちは真田や蓮二を中心にみんなよくやってくれていると思うからまだ大丈夫。

もう一つは屋上庭園だった。

あそこは俺が学校から場所を借りて単独でやっているガーデニングだった。

卒業するまでに誰かに引き継いでもらうか、全部鉢に植え替えて持って帰ったりみんなにあげたりしようかと考えていた。

でも、急に入院することになって……もう駄目になっても仕方ないとあきらめていた。

まさか、泌香さんが世話をしてくれていたなんて…

蓮二の話によれば、彼女はガーデニングに足りない知識などを補うために、

たびたび図書館に来ては、難しい顔をして関連本を読んでいるそうだ。



「嘘…だろ」

「事実だ。今度彼女が来た時に、確かめるといい」



にこりと微笑む蓮二の顔をみて、情けないけど、俺はまた泣きそうになった。





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