short stories

□日常(甘ずっぱい)
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私が最近はまっているのは、学校の自販機に売ってる100円パックの梅ジュースだ。
長い休み時間ににのどの渇きを覚えて友人の佐藤ちゃんと飲み物を買いに行った。
私はもちろん、今はまってる梅のジュースを買う。
ちょっとくすんだ緑色のパッケージが逆にみずみずしい感じがして、味もさわやかでおいしい。
そういえば梅系の商品っていうと、梅シソのせいか赤紫のイメージのはずだけど、ジュースになると何で緑色なんだろ?
そんなどうでもいいことを思いながら慣れた手つきで100円を入れ、ピ、とボタンを押すとジュースが出ててきた。



買って、すぐに教室に戻ってもよかったんだけど、天気も良かったし、ちょうどテラススペースが空いていたのでジュースを飲みながら話し込んでいた。
もうそろそろ教室に戻ろうかと話していながら、なかなか腰を上げないでだらだらと過ごしていると、目の前にいきなりヤツが現れた。
日吉だ。


「おい、泌香」


今日は初めて話すというのに、いやに面倒くさそうな顔をしている。
ちょっとキミ、失礼じゃないの?と話しかけられてうれしい気持ちと、複雑な思いがした。
まあ、日吉らしいけど。



「…何?」

「お前、コレ」



と日吉が差し出したのは分厚い書類の束だ。
押し付けるようにぐい、と目の前に出されて思わず体を少し引いた。



「うお…何、急に。ていうかなにこれ」

「お前、聞いてなかったのか?今朝、跡部さんに言われただろ」


はあぁ、日吉はと盛大なため息をつき、ついでにうなだれた。
友人は目の前でくすくすと笑っている。


「それ、今度の合宿の書類じゃない?」

「ああ!…え?なんで佐藤ちゃん知ってんの?」

「オイ、なんでテニス部でもないやつが知ってて、マネージャーのお前が把握しきれてねぇんだよ」



まったくと言って渡された書類を、受け取る。



「お前が取りに来ないから届けろって言われたんだよ。あと、参加表明の書類もお前の分は俺が書いて出しておいたからな」

「ええ!?でも、この日は田舎のおばあちゃん家に行くのに…それに跡部さんは別にレギュラーメインだから2年のマネはどっちでもいいって……」

「ハァ?お前も行くに決まってんだろ」

「なんで?」

「なんでもだ」

「?」


なんなんだ、今日の日吉は。
めんどくさそうにしてたくせに、わざわざ私のところまで書類届けてくれたり、合宿に無理矢理参加させたり…
私がまだ納得できていないまま、しぶしぶ書類をめくろうと視線を落とすと、また日吉が話し始めた。


「お前、最近コレばっかりだな」


と日吉が指差したのは、机の上におかれた私の梅ジュース。


「悪い?」

「いや、別に。よくこんなまずそうなもの飲めるなとは思うが」

「む…おいしいのに!そういうことは一口飲んでから言ってくれない?」

「そうか、分かった」



そう言って日吉は私の梅ジュースを取りあげると、顔色一つ変えぬままストローをくわえて飲み始めた。



「へ?」



びっくりして思わずその姿を凝視した。
ちゅうぅ、と一口飲み終わると、ストローを離し、私を見下ろしてきた。
私はというと、日吉と目が合い思わず顔が熱くなるのを感じた。
それを見た日吉は、にやりと口の端を上げたかと思うと、


「ふ。まあ、悪くはない。」


と言って、ジュースのパックを持ったままくるりと向きを変えて校舎の方へ歩き始めた。


「ちょ、ちょっと私の…!」


慌てて椅子から立ちあがって引き留めようとしたけど、いろいろ動揺して言葉が続かない。

え?だって、今…日吉…


「書類届けたお礼に、もらってやるよ」


最後にそれだけ言って、すたすたと行ってしまった。



それ以来、私はあんなに好きだった梅ジュースを少し飲みづらくなった。

ちょっとくすんだ緑色のパッケージが、なんとなくアイツと重なるし、飲んでいるところを見られると、無言でにやにやしてくるから。










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