この時期の必須アイテムと言えば、ボロのバットでも、スキップサンドでもなく…(ネタが古くてすみません)
傘だよ!!!
いや、私だってばかじゃないから持ってきたよ。傘の一本くらい。
でも、今のこの状況は何?持ってきた傘が、今朝傘立てに入れた傘がないってどういうこと?
そういえば、今朝の占いで、「自分の力の過信すると落とし穴にはまります」って言ってたけどこのことなの?自分の力って何?傘を守る力っていいたいの?
「はあぁー…どうやって帰ろう」
「お前、こんなとこで何やってんだよ」
対策を練ろうとして、いや、この状況に少し参ってしまい、昇降口の靴を履くところに腰を下ろしてため息をつきながら外の雨を眺めていると、急に後ろから声がした。
「日吉…」
「お前、まさか傘忘れたのか?」
「ち、違うよ!佐藤ちゃん待ってるだけ」
「当たり前だ。今日は朝から普通に降ってたんだ。持ってないなんて奴は、濡れたい奴か風邪をひかない自信のある馬鹿だけだからな」
そう言いながら日吉は、自分の靴を出してとんとんと履くと傘立てにある自分の傘をとって歩き出した。
あ、行っちゃう…
急に心細くなって、とっさにホントのことを言ってしまおうかと思ったけど、言ったところで日吉が自分の傘に私を入れてくれるとは思えないし、逆に変に気を遣わせてしまって気まずくなるのも嫌だ。
仕方ない。今日は濡れて帰ろう。
そう決意すると、先ほどよりは少し心が軽くなった気がした。
「じゃあな」
「うん、じゃあね」
軽く手を振って見送ると、日吉はサッと傘を広げて昇降口を後にした。
よし。私も帰ろう。
日吉とは帰る方向が逆だし、たぶん会わずに帰れるはず。
どのみち濡れるのがわかってるのに、帰るのが遅くなるのもいやだしね。
そう思って、意を決して立ち上がると、先ほど出て行ったはずの日吉が戻ってきた。
ぎょっとして、その場に立ったまま尋ねた。
「どうしたの日吉、忘れ物?」
「…ああ」
日吉はそう答えるや否や、ぐっと私の手首をつかんだ。
「帰るぞ」
と言って、手首を持ったまま、歩き出した。
え?ええ?
突然のことに驚いたけど、濡れなくて済むなとほっとしたのと、手首を握る日吉の手がとても暖かかったのとで、なんだか心がじんわりとなった。
日吉が傘を持つために私の手は放してしまったけど、つかまれた時の感覚は、まだ当分の間は残りそうだ。
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