ノワール
□1.ふたりきり
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街は明るくまるで生きた芸術のように美しい
その中でたった1人、息を切らし必死に走る少年がいた。
フードを深く被り両手は長い服の袖の中にすっぽり隠している。そんな少年の目はどこか喜びに満ちていた。
息苦しくて胸が痛いんじゃない、期待に胸が踊ってるんだ。
そんなくだらない思い込みをしながら少年は街角にある一軒のカフェの扉を大きく開いて中に入った。
「いらっしゃいませぇってあれ、」
店長らしき長身の男は少年を見ると動きを止めた。少年が黙っていると男はかがみこみ少年と視線の高さを合わせて言う。
「駄目だぞ坊や。お母さんは?」
「うるさいっ!早くルーウィンを出せ!」
威勢のいいその声を聞くととたんに男は無表情に戻った。
かと思うと満面の笑みを浮かべ、少年の頭をポンポンと叩きながらまたお前かと笑った。
「元気そうで良かったよ。ちょっとまってな」
拗ねたような表情でそっぽを向いた少年から手をはなし、男は店の奥へ入っていった。
するとすぐさま入れ替わるようにして小さな足音が近づいてきた。
視線を向けると今度は幼げな少年がカウンターまで走りよってきた。
「ダーウィル!元気そうで良かった!」
「ルーウィン!」
ダーウィルと呼ばれた少年はルーウィンが来たとたんに先程とは人が変わったかのような笑顔になり、みっともなく椅子の上に膝立ちしてカウンターに身を乗り出した。
「今日はどうしたの?」
「そうっ!そうなんだよ!聞いて驚け!?ぶっ倒れるぞ!」
「なになにっ?」
世にも楽しそうに会話する二人を幸せそうに眺める他の客達の視線に気がついてダーウィルはますます身を乗り出し、ルーウィンの耳元で嬉しそうに言った。
「父さんから手紙が来たっ!」