ノワール

□2.友達
1ページ/11ページ


ドクン

互いの鼓動が聞こえているように思った。
それほどに、張り詰める瞬間。

兄は隠していた両手を出すと握りしめていた手紙にそっと手をかけた。
そして二人、顔を見合せるとゆっくり封を破った。
中に入っていたのは小さな一枚の白い紙。
よく見れば、たった一文書いてあった。

『ヘンリー・フレニング』

「依頼だよ。」
名前が書いてあったという事はこの人物を殺せという意味。
写真が入っていることもたまにあるがほとんどは名前のみだ。それでも二人にとっては不可能ではない。
殺す前にダーウィルの顔をもし見て知っている風だったらそれはだいたい本人だ。

いつものように軽く言葉を交わすとダーウィルは店を出た。
ルーウィンは息を吐き出し、店内をゆっくりと見回す。
カウンターの席には男性客が一人。その奥のテーブル席には酒を飲む男性が四人。さらにその隣のテーブルには女性が二人。その隣は空だ。
何かを決めたように一点を見つめると瞬時に笑顔をつくり、手早くカップに紅茶を注ぐとカウンターの客の前へ差し出した。

「頼んでないぞ?」
「サービスです。」
にこやかに答えると客は口の端を上げてカップに口をつけた。
「うまいじゃないか。坊主が淹れたのか?」
「はい。珈琲は苦手ですけど紅茶には自信があるんですよ。」
嬉しそうにそう言うと、わざとらしく思い出したかのように声をあげて言った。
「そういえばこないだ、変な人が来たんですよ。」
「変…?」
「はい。何か帽子を被っててよくわからなかったけどなんだっけな…えーっと、」
考えるフリをして間をとった後、ひらめいた素振りをして呟いた。

「ヘンリー…なんだっけ…っと、そう!ヘンリー・フレニングって名乗ってました。」
「ヘンリー…?知らねぇな。」
「…そうですか…」

客の言葉に案の定肩をおとしかけたその時、
「ヘンリーって言うとあれか?根暗で変わり者のフレニングだろ?」
「知ってるんですか?」

不意に奥のテーブルで飲んでいたうちの一人がほとんど空のコップを持ってカウンターにのりだし、話に入ってきた。
いわゆる酔っぱらいだろうが、今のルーウィンにとっては丁度良い網だった。

「知ってるも何も俺ん家のガキがあいつはおかしいって面白がって話すんだよ。」
「へぇー…」
一瞬視線をドアの方へ向けるとにこやかに客の空のコップを受け取り、酒を注ぐと客へ差し出した。
喜んだようにそれを口にしたのを見てルーウィンは早速探りをいれた。

「そのフレニングさんの話、もっと詳しく聞かせてくださいよ。」


ルーウィンの情報網はおもに店内の客から始まる。
先程のように話をフリ、かまをかけ、知っているようだとそこから聞き出していく。
たいていは誰か一人か二人知っている。父の頼む人物はそれほどその住んでいる近所やここらへんでは少し名の知れた人物が多い。
だからこそ、やりやすい。

ルーウィンは自慢の耳で、男性客の話を隅々まで聞き、ダーウィルに伝えるために記憶した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ