その他 読切
□姫と執事の昼下がり
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季節は初夏。ヒグラシの鳴き声を遠くに聞きながら、白牙百合愛(ハクガ ユリア)は呟いた。
「何か面白いことないかなぁ」
綺麗に着飾った彼女はまるで人形のよう。追い風に舞う銀髪は腰よりも長かった。
丘の頂上から国を見下ろす。視線を滑らせて王宮、牙竜大道を見やり、最後に試練場に目を留めた。
あの人は今頃、あそこにいるだろうか。百合愛の顔がふっと和らいだ。
「お前は何回俺を困らせれば気が済むんだ?」
呆れたような声に、百合愛は嬉々として振り向いた。まさに今頭に浮かんだ人物が立っている。
「今ね、連のことを考えてたの。テレパシーでもあるのかしら」
「まずは人の話を聞け。俺はな、お前を連れ戻すように言われて来たんだ」
額に手を当てる少年。百合愛が花のように笑った。彼の、その存在を素直に愛しいと思う。