その他 読切
□愛と絆はイコールで
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五月十六日、水曜日。
一時間目は選択の現代文、四時間目は全体の現代文。つまり今日は、智史の授業を二度受ける日だ。
今は、その二度目の授業中。
「小説はリード文を踏まえて、その上で内容を・・・」
それにしても眠い。非常に眠い。
「じゃあ、誰かに次の段落を読んでもらおうかな」
教卓の智史と目が合った。これは当てられるパターンか。
「はい。神川、どうぞ」
睡魔と戦っていたため、内容が断片的にしか分からない。
仕方なく立ち上がり、指定された段落を探して、厚い教科書をぺらぺらとめくった。
「210ページなんだけど・・・まさか神川、寝てたのか?」
「寝てたらなに?」
伏し目がちに言葉を返す。智史がやれやれと苦笑した。
「開き直るなよな」
「210ページか・・・」
「聞いてるのか?神川」
「吉崎先生。文章を読みたいので静かにして下さい」
目的のページにたどり着き、指定された段落を音読する。
今回の題材は「小説」。堀辰雄(ほり たつお)の「風立ちぬ」から抜粋した部分で、結核の彼女を愛する男の話だ。