その他 読切

□愛と絆はイコールで
1ページ/5ページ

 

 五月十六日、水曜日。
 一時間目は選択の現代文、四時間目は全体の現代文。つまり今日は、智史の授業を二度受ける日だ。
 今は、その二度目の授業中。

「小説はリード文を踏まえて、その上で内容を・・・」

 それにしても眠い。非常に眠い。

「じゃあ、誰かに次の段落を読んでもらおうかな」

 教卓の智史と目が合った。これは当てられるパターンか。

「はい。神川、どうぞ」

 睡魔と戦っていたため、内容が断片的にしか分からない。
 仕方なく立ち上がり、指定された段落を探して、厚い教科書をぺらぺらとめくった。

「210ページなんだけど・・・まさか神川、寝てたのか?」

「寝てたらなに?」

 伏し目がちに言葉を返す。智史がやれやれと苦笑した。

「開き直るなよな」

「210ページか・・・」

「聞いてるのか?神川」

「吉崎先生。文章を読みたいので静かにして下さい」

 目的のページにたどり着き、指定された段落を音読する。
 今回の題材は「小説」。堀辰雄(ほり たつお)の「風立ちぬ」から抜粋した部分で、結核の彼女を愛する男の話だ。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ