その他 読切
□木漏れ日
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神川天衣(かみかわ まい)はちらりと顔を上げ、再び俯いてため息をついた。右隣りでは滝本愛里(たきもと あいり)が英語を、左隣りでは黒澤匠(くろさわ たくみ)が現代文を勉強している。雰囲気的にも「やりたくない」とは言えず、天衣は所在なさげに視線を泳がせたあと、ぐったりと机に突っ伏した。
「神川、ノートのまとめは終わったのか?」
吉崎智史(よしざき さとし)の気遣いに応える気もおきない。いくらテストが近いからといって、天衣は二人のように全力で勉強できるほど素直でもないし、真面目でもないのだ。
「ほっとけ、ほっとけ。頑張ろうとしねぇ奴なんざ、赤点だろうがタマゴだろうが知ったこっちゃねぇんだよ」
「最低だな、あんた・・・」
天衣はやけに口の悪い教師を睨んだ。テスト期間になると、英語教師の黒崎篤人(くろさき あつと)の口調は一段と辛辣になる。つまり今は辛口期間。普段から黒崎はクール、もっと言えばコールドなキャラだが、モデル並の容姿とスタイルのせいか、生徒の人気はかなりある。それがまた不愉快に拍車をかける。