シリーズ

□其の壱
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暇すぎて死ぬとかそんなことは無くて、お琴にお茶に歌にその他諸々の習い事、疲れても姫様だから畳に寝転んじゃダメとか走り回ったりしたらダメ、おもしろくても笑いすぎたらだめとか姫様という立場は窮屈だと思う。

贅沢なことかもしれないけれど前世普通に一般家庭で育ち働いていた私としては姫という立場以外の場所に生まれ変わりたかったと思う。

『そうだ、城下に行こう』

すっと正座から立ち上がれば、若干足が痺れている。ちょっと痛い…十二単ほどではないが裾の長い着物を脱ぐために女中の人を呼んで、町人が着るような着物に袖を通す。

『じゃあ、お早夜行ってきます』
「姫様、気を付けて行ってくださいね」
『分かっておる』
「夕暮までには戻ってきてくださいね」
『はい』

お母さんのような早夜に返事をして正門よりは警備の手薄な裏門からこっそりと城を出る。だてに城下に降りていないから兵士の交代の時間だって把握済みです。
少し遠くなるが駆け足程度の速さで行けば、すぐに城下に出る。
賑やかな城下の活気はいつ来てもワクワクしてしまうメイン通りをきょろきょろと歩きながら簪や着物を次から次へと見て回る。
あー平和だ!
たぶん後ろから護衛の忍びとかついて来てるんだろうけど、逃げ出しすぎて、怒られない代わりに黙って忍びつけられるとか私どんだけなんだ。呆れられてるー今度玄米茶にでも合うお饅頭でも買って帰ろう。
とか思ったらちょっとお腹が減ってきた。
ちょうど良い処に茶屋があった。茶屋タイミングが良すぎます。

『女将さーん、お饅頭ひとつくださーい!』

適当に座って注文をする。頼み方が絶対に姫じゃないとか気にしてはいけない。こっちの方が町人っぽいでしょ、うん。
早業の如く運ばれてきたお饅頭を一口食べると餡の甘さが口の中いっぱいに広がった。
よし、お土産はこれにしよう。

『すいませーん!』

お饅頭をいくつか包んでもらおうと声をかけたら、ちょっぴり困り顔の女将さんがやってきた。
「はい、なんですか?」
『お饅頭お土産にしたいので十四・五個包んでもらえませんか?』
「はい、わかりました。…あのお客さん」
『なんですか?』
「あちらのお客さんと相席になってもいいかい?」
ちらっと女将さんの言った方へ視線を向けると、なんか青い服着たイケメン(死語)がいた。そういえば、店内は結構繁盛しているのか今現在満席だった。
『いいですよ。一人で食べてるのも悲しいし』
「ありがとうございます」
困り顔が笑顔になった女将さんは入り口で待っている青い人を案内しに行った。
別にぼっちでいるじゃん悲しいとか思って許可したけど、ちゃんと親切心もあるんだからね!


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