銀月短編集
□傾城篇〜補完?〜
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今回の鈴蘭の事件が終わり、礼を口実に銀時はひのやの店先で月詠に酌をさせていた
並んで座る二人の視線の先では太陽と交代するためにその光を小さくしようとしている月がある
「それにしてもよ…いっくら約束したからって三十年以上も花魁続けるなんてすげーよなぁ」
「そうじゃな、まだ吉原が地下に潜る前の話。ほかの道もなかったわけではなかろう…」
一緒にこの吉原の街を出るという果たされなかった約束
気が遠くなるような長い時間を花魁と侍はどんな思いで過ごしていたのだろうか?
「だが…わからぬでもないそれだけ相手に惚れていたんじゃ…」
銀時は目を見開くと月詠に顔を向けた
「お前さぁ、前に色恋はわかんねぇって言ってなかったっけ?」
月詠は一瞬しまったという顔をしたがすぐに観念したように口を開く
「…わかりたくなかっただけじゃ…わからないフリをして仕事に打ち込めば余計なことを考えんで済む…
しかし、鈴蘭の話を聞き人事とは思えなんだ
わからないフリはもう出来ん」
銀時はそう言って俯いてしまった月詠から視線を逸らすとグイと猪口の酒を飲み干し、視線を月へと戻した
「爺さんにはああするのが精一杯だったってのはわかるけどよ…俺だったらあんなに待たせたりしねーよ
何があったってよ、必ず力ずくでも約束は果たすさ」
「追っ手をいつまでもかわすことは難しい、力だけではどうにもならんこともあるじゃろう?」
「それでもよ、とりあえず二人で逃げりゃなんとかなるだろ」
月詠は顔を上げると煙管に火をつけ煙と共にため息を吐く
「だからぬしはたちが悪いんじゃ」
「まぁとりあえずおめーは安心して待ってられるってことだよ」
月詠は予想外の返答に思わず手に持っていた煙管を落としてしまった
「なっ何を言うておるんじゃ!大体わっちはぬしと約束なんぞしておらん!」
「これからするかもしれないだろ?」
銀時は月詠の落とした煙管を拾い上げ受け取ろうとする月詠の手を取り小指にキスをした。
−ーーお前となら地獄へだって逃げてやるよーーー
→あとがき