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□忌々しい夢
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13歳の夏。
今までで最悪な夢を見た。

気が付けば草原に立っていた僕。

何気なく格好をみれば、全身が黒の服を着ていた。Yシャツから革靴までオールブラック。
普段着も基本的Yシャツにネクタイ、またはリボンタイのモノを着ているから違和感は無いけれど、全身黒は滅多にない。あったとしたら葬式ぐらいだ。

黒曜石のついたネクタイピンを触ると、石独特の硬さと冷たさが指に伝わる。

…随分、リアルな夢だな。

一瞬(…誘拐?)と思ったけれど、それは無い。
この空間と言うべき世界には気配など僕を除き一つも存在しないからだ。

だから警戒などせず、サクサクと瑞々しい草を踏みながら草原を進んでいった。

…それにしても、青空と草原に黒ずくめの格好って凄い目立つよね。何故黒何だろう…謎だ。


それから何分経ったのだろう、時間感覚が分からないためもしかしたら何時間かもしれない。まあ夢だから、という理由から気にせず呑気に僕は歩く。

すると、ブワァ!!と真正面から風が吹いてきた。この空間に来てからない現象だった為に、警戒しながら腕で風をガードするとあっと言う間に止んだ。

一瞬空白を空け、僕は腕をゆっくり下ろす。よし、身体に異常は無い。

そう思い足を踏み出そうとした瞬間、僕は固まった。
僕の目の前に、先程まで存在しなかった物があったからだ。

広い澄み渡った湖、美しいと言うより可憐というのが相応しい花々、地に根を張る大きい木。そしてその下に置いてある病院ベッド。

呆然と見る僕は、眼前に映る光景を知っていた。
知りすぎて柄にもなく恐ろしくなるくらいに。


『――僕には、お前が必要です』


この場所は、〔私〕と六道骸が初めて会った場所なのだから。


「…っ」


そう脳内で認識した途端、腕の震えが止まらなくなった。

この13年間、前世の人間となんて関わり合いは一切無かった。無くしたはずだったんだ。

なのに、なのに何故今更…。

僕は口を噛み締める。
強くやりすぎたのか、仄かに口内が鉄の味で充満した。


…落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け。

居ない、ここにはアイツは居ない、存在しない。

此処は僕の支配下にある空間なのだから。
ならばコレ達を無くせばいい、消せばいい。


(消えろ)そう脳内で命令した瞬間、忌々しかった光景がものの見事に変わった。

広がっていた青空はペンキをかけたように黒く染まり、地平線まであった芝生や花は全て枯れ果てた。
澄んでいた湖は湧き出る処から赤く染まりだしあっと言う間に染め上げ、血の湖にしか見えなくなってしまった。
いや、あれば間違いなく血だ。今では慣れた鉄の匂いが、湖から変色した水が溢れ出し海にしか見えなくなってしまったそれからキツく香ってくる。

それに眉を寄せていると、枯れ果てた地面から死体がコポコポと浮き出てきた。見れば海からもだ。
まるで魚の群のようなそれらは全く息をしていなく、首が無い者もいれば身体がグチャグチャな者もいるし、中には綺麗に死んでいる者もいた。


「……グロい」


別に吐きはしないけれど、気分が良いものではない光景だ。良いという人間が居るとすれば死体愛好家ぐらいだろう。

ただ僕はあの光景さえどうにかなればいいと思っていただけなのに、何故こんなにもグロテスクなんだ。そこまで歪んでないはずなんだけど…。


はて、と思いながら屍の中を歩く。
ぴちゃぴちゃと血を踏みながら見る景色は、一般人なら発狂ものだろう。


「………ん?」


キラリと光る物が死体の中に紛れていた。
コレは…指輪?ビー玉くらいの宝石がついているそれを、両手の指全てにはめている。エメラルド、ルビー、トパーズ、オパール、どれも中流家庭では一生掛かっても買えない代物だろう。

何処かの成金?そう何気なしに見れば、腹部を刺されたでっぷりと太った多分イタリア人の男だった。
この男、何処かで見た覚えが…。

……あ、そうだ。
数年前に殺した男だ。

白藍が僕がどれだけ強くなったのか試験するために、イタリアに行ってファミリー全滅させた時に確かボスだった奴だ。
そうだった、醜い悲鳴をあげてたっけコイツ。金を望むだけやるから自分だけは助けろ、だっけ。ムカッときたからグサッとやっちゃったよあの時は。

因みに全滅させたファミリーは、裏で色々と非合法な事してきたやつだから。白藍がちゃんと事前調査しといてくれたから心配無用。

…よく見れば、ここにある死体全て僕が今までに殺してきた奴等だよ。なんで気が付かなかったんだろう。
だからグチャグチャな者が多いのか、僕の技浴びたと思えば納得の死に方だ。

謎が一つ解けた所で、散策を再開した。





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