少女A

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「…って千春。
アンタはまたそんなこと言って……。そんなんじゃ一生彼氏出来ないよ?」


お母さん悲しい!と嘘泣きを始める私の友人、しーちゃん。


いやいや誰があなたの娘になりましたか。

なんてツッコミをして私は書いている最中であった週直日誌に視線を戻す。


今の時刻は4時32分、放課後だ。


毎日騒がしい教室も今では残ってるのは私としーちゃんだけ。

教室には私としーちゃんの声が響くだけで静寂に包まれている。

まだー?と催促するしーちゃんを見ると彼女はパンを頬張っていた。


早く書き上げなきゃな…。


相手を待たせるのは良くないもんね。


「ねぇ、千春は本当に恋とかしたくないの?やっぱ女子高じゃ物足りなくない?」


またその話か…。


半分呆れながらも仕方なく耳を傾ける。

しーちゃんはこういう恋愛話をよく振る。

いつも行動を共にしている友達とよくするのだろう。


こういう時の私のテンションだだ下がり。もう氷河期が来たかのように。少し言い過ぎかもしれないけど、この例えが妥当だと思う。


『別にそんなことよりも、人生もっと楽しいことが星の数ほどありますから。興味ありません』


「またそんな冷たいこと言って…。私は千春のこと心配して言ってるのよ?千春とは組違うしあまりクラスに馴染んでないみたいだから…」



『…それとこれとは話が別です。しーちゃんに私の事をどうこう言われる筋合いはありませんよ。しーちゃんだってゲームの中の人に恋して虚しくはならないのですか?』


「ちょっ傷を抉るような事言うの禁止!それに龍之介くんは私の永遠の彼氏なんだから!」


ガタッと立ち上がり私の肩を掴み揺らすしーちゃん。


気分が悪くなる…。


…自分で話を振るんじゃなかった。


心中後悔するけど、もう遅い。


『………はあ』


私はこれ見よがしに大きな溜め息を吐く。けどしーちゃんはそれに気付かなかった。


…また始まるよ、しーちゃんの「龍之介くん談義」が。


―「龍之介くん」とは、しーちゃんがハマっているゲームの中の男の子。

そのゲームは「乙ゲー」と呼ばれているらしく、自らがヒロインとなって男の子に甘い言葉を囁かれたりイチャラブする物だ。


私も一度しーちゃんに男嫌いを治すためだと言う理由で(無理矢理)押し付けられたことがある。

開始数分で目眩と吐き気と悪寒がしたからすぐに止めた。



…とにかく、しーちゃんは一回このスイッチが入ると話が中々止まらない。


この談義には耳にタコが出来そうなくらい付き合わされた。

おまけにこの時のしーちゃんははっきり言って痛々しい。


どっちかと言うと私よりもしーちゃんの方が危ないと思う。


私はまだ正常な部類に入りますよきっと。


…まあ、それはおいといて。


―今のうちに回避しなければ。


「龍之介くんって堅物キャラなのに実は甘党ってギャップが可愛いの『あー早く日誌を職員室に届けないといけませんね!しーちゃん!週直日誌を職員室に持って行って来ます!』……え?あぁ、行ってらっしゃい」


突然話に割り込んだ私を呆け顔で見送るしーちゃん。


ごめんなさい、しーちゃん。


…でも話を延々と聞かされるのは御免です。


私は逃げるようにして早々と教室を後にした。




「…千春の奴、逃げたわね。…あら、あの子ってば竹刀忘れてる」



パニックになってないと良いけど。

そんな彼女の一言が教室にポツリ、と響いた。


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