少女A

□07
1ページ/2ページ



「じゃあ一緒に行こう!そうすれば怖くないでしょ?」


私の手を引っ張って保健室を出ようとする夜久さん。


『あ、の…夜久さん!一つ、お願いして良いですか?』


「?」























『…夜久さんすみません。こんなことお願いしちゃって…』

「ううん、むしろ頼ってくれて凄く嬉しい!」


私は夜久さんに手を握って良いかお願いしたのだ。


夜久さんは良いよ!とあっさり了承してくれた。


ほぼ初対面の相手にも優しいなんて。さすがマドレーヌ。


「でも私からも一つお願いしていいかな?」


『はい、何ですか?』


「私のこと名前で呼んでほしいの!」


『え……っ』


困った。実に困った。

私はしーちゃん以外の人を名前で呼ぶのを躊躇っていたから。

というより自分が呼ぶのを許したくなかったから。


『……どうしても?』


「どうしても!」


どうやら簡単に引き下がるつもりはないようだ。


…でも夜久さんは良い人だし。

あの人達なんかじゃない。


それに…私のことを"知らない"。


……大丈夫だよきっと。


少しくらい心開いても……良いよね?


『じゃ…じゃあ、夜久さんのこと………その、月ちゃんって呼んでいいですか…?』


名前で呼ぶのが何処かくすぐったい気持ちがして。


つい照れてしまって、俯いてしまった。


そんな私を月ちゃんはじっと見ると―


「………千春ちゃん、可愛いっ!!」


『うぎゃっ』


月ちゃんは突然むぎゅっと私を抱き締めた。あまりの勢いに私は奇声を発してしまう。


どうしたんだ月ちゃん。


「顔を真っ赤にして俯いちゃうなんて…なんて可愛いの!千春ちゃん大丈夫!何があっても絶対私が守ってあげる!」


『あ…ありがとうございます』


…どうやら好かれたようです。


「…おーい夜久、如月。先生の存在忘れないでくれー…」




















「ほら、着いたぞ」

頑張れ、と一言そう言うと先に教室に入って行った。


廊下に残されたのは私と月ちゃんの二人だけ。


どうしよう、手がまた、震えてきた。


『…つ、きちゃん』

察してくれたのか気付けば月ちゃんが私の手をぎゅっと握ってくれていた。


「千春ちゃん大丈夫。私も一緒に付き添うから、ね?」

なんて優しい、安心する笑顔なんだろう。


『…あ、りがと、ございます』


私は必死に言葉を紡いで
手を握り返した。


「じゃあ入るよ…?」


月ちゃんの問いに私は
コクリと頷く。
私は、一歩を踏み出した。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ