徒然会話・小話。(アナザー大罪)

□桃の節句
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明かりをつけましょ雪洞にー

お花をあげましょ桃の花ー

五人囃子の笛太鼓ー

今日は楽しい…………



小毱「ひなまつりだよーきょーにぃ!☆おんぶしてー☆」

恭「はぁ……今度は小毱か……ハイハイ…」

これでもう何度目だろうか、おんぶしてだの抱っこしてだのおうまさんしてだの。朝からもう何回目?そして何人目だ?これ。里内を歩く度次から次へと声を掛けられるから数十メートルすらもまともに歩けやしない。まぁ今日は仕事も何も無いからいいといえばいいのだけれど。

小毱「わぁーいきょーにぃの背中だー☆わかくささまが好きっていってた!」

恭「それ心底謎なんだけどな、何で俺の背中なんだよ…朔兄ぃの背中のがいいに決まってんだろ姐さんなら。つーか、俺の身の安全の為にも乗るなら朔兄ぃにしてくれりゃいいのに姐さん…」

小毱「はしってー!☆」

恭「ハイハイ…」

言われるがままに恭は駆け出した。勿論かなりゆっくりと、だけれども。適当な走り。

けれどもそんな普通以下の適当な走りには背中のお姫さまは当然ご満足頂けなかったらしく。ぷーっと膨れて恨みがましく恭の後頭部を見つめた。

小毱「ちっがうよきょーにぃ!そんなんじゃないの!もっといっぱい!走って!」

恭「……いっぱいって?」

小毱「びゅーんて走ってぴょーんて飛んでくるくる回って!いっぱい!」

恭「危ねぇだろ落ちたらどうすん…」

小毱「きょーにぃが落とさなきゃいいのーいいから走ってーー!“お姫さま” の言うことがきけないの!?今日は “ひなまつり” なんだよ!?このかっこう見て!」

恭「あーハイハイ分かりましたよハイわかりましたー。仰せのままに “お姫様”」

小毱「わぁあーーい☆」

そうして恭はお姫様…もとい、小毱を背負ったままタン…と地を蹴り里内の道や屋根の上などを風の如く駆け跳んで行った。勿論全速などでは全くないが。

今日は桃の節句。俗に言うひな祭りだ。その主役は勿論子供な女の子であり世間一般的にはそんな女の子供達の健やかなる成長を祈ってお祝いする日。……の、筈なのだが。この里では少しばかり違う。



「おや可愛いねぇ☆今年も派手な衣装じゃないか萌木。母さんに着付けて貰ったのかい?」

萌木「うん!みてみてーこれ、おび!ことしはわかくささま色なんだよーおっかぁに買ってもらったのー!♪かわいいでしょ!?☆」

「うんうん可愛いよ。嬢ちゃんにも見せておやり絶対喜ぶからさ」

萌木「うん!☆」

そう言ってとてもとても嬉しそうに笑って萌木は大好きな若草の姿を探しにててててっと走り去って行った。走るその動きに合わせて大きく咲く花の様にして結ばれた若草色の絹帯が萌木の小さな背中で日の光にきらきらと光りながら上下に揺れる。何ともまぁ華やかで可愛らしい姿だ。

小毱もそうであったけれど。今日、里の小さな女の子達は皆これでもかと言う程に着飾って飾り付けられそれこそお姫様の様な華やかな衣装を身に纏っている。

これが里の “ひな祭り”。子供達の健やかな成長を願うということ自体はそれこそ毎日当たり前にしているからそこに重きを置く事は無く。ご馳走を食し白酒でちょっとした宴会、という事はするけれども、ひな祭りな今日のメインは “ザ・親馬鹿炸裂我が子を誰よりも華やかで可愛らしく着飾ってあげよう大会”。で、ある。各家庭その力の入れようは凄まじい。子供らも皆、普段は着ることもない豪華なお衣装に正にお姫様気分を味わい放題でキャッキャキャッキャと本当に嬉しそうにはしゃぎ走り回っている。中には “お姫様なのだから淑やかに”、という本格的ななりきりを見せしゃなりしゃなりとしてみせる子も居るのだけれど。



夏柝「あーもー疲れたぁ……しんどーい…」

ナツメ「ヘバってんじゃないよ情けない奴だね。まだ半日も過ぎてないよ」

夏柝「子供の元気さ舐めんなって。底なしだよあれ」

「おめぇもまだ子供だろうが夏柝、何おっさんくさい事言ってんだ(笑)」

夏柝「いやそうだけど……一桁の力ってほんと凄すぎなんだよおじさん。加えてご機嫌最高潮なもんだからもう凄い凄い…」

ナツメ「あんたがショボいだけだろクソヘタレ。」

夏柝「じゃあお前変われよナツメ!俺ら男衆の代わりにお前が遊べ!」

ナツメ「あたいも女の子だから。主役って言うにはちょいと歳が離れてるから特別な事はしないけどそれでも女の子だから。何もしないよ今日は。おっかあのご馳走作る手伝いするくらいさ “お姫様” の命令聞くのは男衆の仕事だろうがヘバってないで働きな人力車」

夏柝「あーもー……女ってどうしてこう強い……」

この里では男衆よりも寧ろ女衆の方が強いというのはもう安定の事柄である。頭領であり里長である玄斎すらもが里一番のお局である浮里に一言喝を入れられただけで黙り込んでしまうくらいなのだから。男衆を尻に敷くのがこの里の女衆の役目。肝っ玉姉ちゃん母ちゃんばかりが揃っている。

そんな里の特色が出ているのがこのひな祭り。女の子供達を着飾らせるというメインに並ぶ二つ目の目玉行事。“ザ・女の子供を崇め奉れ”、で、ある。

着飾っている女の子供=“お姫様” の言うことは本日は絶対なのである。対象は男衆。故に、朝からもうこれでもかというくらいに男の主に若衆達はずーっとずーーっとお姫様達の遊びに付き合わされているといった流れだ。反論など出来ない。走れと言われれば走るしかないしお馬しろと言われれば黙って四つん這いになるしかないのである。何とも健気な光景だ。

「……お?ほれ夏柝、“先輩” が戻って来たぞ交代なんじゃねぇかこれ?見ろよあのげんなりした面(笑)」

夏柝「……へ?」

と、そこへ。振り返った夏柝の視界の先から今までずーっとずーーっと走り回らされていたのだろう、背に小毱をおぶった恭が生気も果てた様な表情をしてこちらへと足を進めて来る。そしてその姿を見ていた彼らの前にとん、と着地した。

「お疲れさん馬車馬(笑)」

小毱「あはははー!☆たのしかったたのしかったほんっときょーにぃはやぁい!☆むささびさんかなんかになった気分だったー!」

恭「そっか……そりゃ良かったよご満足頂けましたか姫君……取り敢えずそろそろ降りてくれ」

小毱「やだもっとはしってー!むささびさんになってー!」

恭「お願いします…!少し休憩させてくださいもう限界です俺興奮して落っこちそうになる姫様をとにかく落っことさないように落っことさないようにって奮闘しながら走るのに神経使い果てました…!少し休憩ください!」

小毱「えー!やだはしっ……」

恭「お ね が い し ま す !!(必死)」

小毱「ちぇ……ならちょっとだけね?後でもういっかいね?」

そうして渋々といった様子で漸く背から降りてくれた小毱にはぁ……っと心の底からの安堵を乗せた溜息を零して。
けれども暫しの休憩後の “もういっかい”。おかわりご所望のお姫様。じとっとした視線を恭は夏柝へと向けた。

恭「……次、夏柝。おめぇ変われ」

夏柝「へ!?いやいや恭兄ぃ勘弁して俺もついさっきまでそんな感じで今やっとこさ休憩入れたばっかり……!」

小毱「!次はなつきにぃはしってくれるの!?ほんと!?☆」

夏柝「や、だからですね姫様……!俺も今休憩……」

朔馬「……よぉ、性が出るなお前ら(笑)ちゃんと “馬車馬” やってるか?」

ナツメ「あ、朔兄ぃ。姐さんも」

若草「ご苦労さまなんですよーおとこのこたちー☆」

そんな場にゆったりとした優雅な雰囲気でこの里の代表とも言える夫婦が揃って参上した。つい先程仕事から戻ったらしい朔馬と朝から絶賛女の子達のいつにも増した愛くるしい姿に悶絶レベルで癒されまくっているらしい若草である。ハイなテンションがもう全面へと出ている笑顔を零しまくっている若草へナツメがフッと笑顔を向けた。

ナツメ「すこぶる極上機嫌だね姐さん」

若草「だってだってー!!かんわいすぎじゃないですか!?今日の女の子ちゃんたち!いやいつも可愛いーんですけど!今日はほんっと…!眼福ですよ眼福ー!!若草もう頬が溶けすぎてすらいむちゃんになりそうですよ!!」

「気付いてっかお嬢?今年のチビらの衣装、何気若草色が一番人気ってゆー…」

若草「気 づ い て ま す よ !!!てゆーか!先程気付かされましたぁ!!」

そして若草は先程
“みてみてわかくささまーー♪あたいの帯わかくさいろー♪わかくささまのお色だよおっかぁにおねだりして買ってもらったのー♪どう?似合う?似合う?♪”
ととてもとても嬉しそうに笑って訴えかけてきた萌木に絶賛悶絶させられた事を嬉々として語り始めた。
うん、うん。良かったねぇ。チビ達ほんっと、姐さんの事大好きだからね。と実に微笑ましそうな空気が場に流れる。

若草「はぁ………おちびちゃんたちほんっっと可愛いです…………!」

朔馬「アンタも着飾ってみれば?若草。桃の節句だし。紫陽花童ンとこの妖狐にでも頼んで衣装用意してもらえよ、何かしら置いてあんだろあっこなら」

若草「いえ。ご遠慮しておきまーす。若草なんかがそんな事したらお里の節句台無しですから」

夏柝「相変わらずドヤ顔どキッパリと自分卑下するよね姐さん。そんな事ないのに…」

若草「(ドヤっ)」


ナツメ(………ん?桃の節句……紫陽花寺…………あ、そう言えば今日って……)

そこでナツメが何かに気付いた…というか、一人何かを思い出したらしい素振りを見せた。

ナツメ「………」

ちらりと里の広場に視線を送る。広場には桃の節句を彩る大きな大きな桃の花の生け花が大々的に飾られていた。


そんな一人だけ意識を他所へと向けたナツメには気付かず盛り上がっている場では、他の者達が和気藹々と会話を交わし合っていた。そんな中で…

朔馬「………?ナニ?」

小毱がてこてこと朔馬の目の前へと歩み寄った。

小毱「さくにぃ!かたぐるましてー!☆」

朔馬「は?」

そんな小毱の一言に一瞬目を丸めた朔馬であったけれども

朔馬「………俺ついさっき仕事から帰って来たばっかなんだケド……」

と、若干 “勘弁してくれ” オーラを放ちながら瞳を細めた。が。
くどいがもう一度言おう。今日は “ひな祭り”、だ。

若草「………さっちゃん?“お姫様” からのお言葉なんですよ?断っちゃっていいんですか?ですか?」

朔馬「………………」

「今日は “ひな祭り” だかんなぁ。““お姫様” の言う事は絶対”。辞退はおろか断るだなんて選択肢はそれこそ皆無だよなぁ、なぁ朔。おめぇも例外じゃねぇぞ?“次期頭領さん”(笑)」

朔馬「…………………、」

小毱「してー」

と、周りからの圧力に最後はトドメのお姫様からの一撃。チェックメイトだ。

ハァァ………と目を閉じて深い溜息を零して。折れざるを得ない現実に渋々といった様子で朔馬が小毱を見やった。

朔馬「…容赦ねぇなホントな。イーよ分かった。………どーぞ。お姫サマ」

小毱「!わぁい!☆」

そして言いながら差し出した手を嬉しそうに握った小毱の手をぐいっと引き上げ軽々と抱き上げた動きそのままにひょいっと自身の頭上へと持ち上げる。
ぽすん、とその肩に座った小毱が目を輝かせて群青色の髪をぎゅ、っと握った。

小毱「わあたかぁい!☆あたいめちゃくちゃおっきくなったきぶん!☆」

朔馬「暴れんなよ落っことすぞ。つーか、あんま髪引っ張んなイテェよ」

小毱「さくにぃはしってー!」

朔馬「ハイハイ」

そして素直に風の如く去って行った朔馬の後ろ姿を見送って。若草は心底微笑ましい気分を味わっている様子だ。

そんな場からくるりと身を翻して何処かに去ろうとしたナツメへ。夏柝が声を掛ける。

夏柝「?どこ行くんだよ?」

ナツメ「ちょいとね。用事思い出したんだちょっと外出て来るよ。すぐ戻るけど」

そう言ってナツメはスタスタとその場を後にした。


向かった先は、里の広場。目の前にある大きな見事な桃の花の生け花、それをじーっと眺める。

ナツメ(……一本くらい拝借しても大丈夫だろ。こんだけいっぱいあるんだし)

そして見事に花開いている桃の枝花を一本抜き取って。くるりと踵を返す。そのままタッ、と飛び上がり屋根の上へと登って崖上から森へと入った後結界を超え一気に駆け出した。





やがて目的地である紫陽花寺へと到着して。呼んでもらった事でにっこりと笑いながら姿を見せたお目当ての相手と取り敢えずは挨拶を交わす。そして手に持っていた桃の枝花を差し出して告げた。

ナツメ「誕生日おめでとう優李。急拵えな上あたいも今日おっかあの手伝いとかであんま時間無いからさ、こんなもので悪いんだけど。あたいからの誕生日お祝いだよ」

優李「わぁ!ありがとうナツメちゃん!綺麗な桃の花だね嬉しいよ」





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最後が一番肝心だったのになんか雑いー!雑いー!ごめんなさぁぁぁぁい💧優李さんの反応がわかんないそして優李さんがナツメのこと何て呼ぶのか分からなかったから取り敢えずあれにした間違ってたら重ねてすまぬ💧
そんなこんなで里の桃の節句の様子と優李さん!お誕生日おめでとうございます(した)ーーっていうちょっとしたお話でしたよ、と☆お祝いショボくてごめんなぁ…

あと流れ的に入れ損ねた“ふたり”の様子をオマケとして次項に落としておく(笑)
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