徒然会話・小話(鬼灯学園パロ)
□見極め
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「「…………………————————」」
今目の前で起きたのは何だったのか?もう何がなんだか全く訳が分からない、と、いった様子で。
目にした光景の理解がもはや追い付かない大半の生徒達が唖然と言葉を失って茫然自失している中、にこやかに笑顔を崩さない赤い彼が真っ直ぐに前を向いたままゆっくりと歩き出した。
“ほーら来たよおにーさん☆”と向こうで楽しそうに口にしている金色の彼。その声に朔馬もまたこちらへと視線を向けた。自分の意思とは関係なく他者から強制的に鬼化を解除された事で、激しい眩暈と疲労感が身体にのし掛かっているのだろう、立つ事が出来ず地面へと片膝立てて座り込んでいる。
「……………」
そのすぐ近くへと来て足を止めた、にこやかに笑顔を浮かべている赤い彼の雰囲気が……
……何処となく、ドス黒い………何だかとても……そう、ご立腹、の、ご様子だ。証拠に浮かべている笑顔に何処となく陰がある。つまるところ“目が笑っていない”目が。
「減給ねさっちゃん」
「……ハァ?ナンでだよ」
「何でもくそもないよ。あとハリセン一発入れるから頭出して」
「だから何でだよ。イヤ」
「わがまま言わないよー」
額にピキリ、と心の目だけで見ることが出来る綺麗な青筋を立てながら実際はにこにことした声と笑顔を崩さずに上司である赤い彼は言い放った。
対して朔馬はふてこさMAX…いや………彼も彼で、体の不調が結構こたえているのだろう。随分と気怠そうな目をしている。
けれども朔馬も、赤い彼が何を言わんとしているのかは充分に分かっている様子だ。
「……………。」
変わらぬ笑顔で地味に上からもの凄い圧を掛けてくる赤い彼を暫しじっと見上げていたが。やがてふい…と、赤い彼からバツが悪そうに視線を逸らして口にした。
「……………理性飛んだ悪い。アイツの殺気に当てられたわ」
「……ちゃんと解ってるみたいだね。ならいいけど。きちんと反省はしてね、さっちゃん」
「……してるよ」
「あははー☆さっちゃんが珍しく素直だ可愛いー☆さっきおにーさん面白かったんだよー?さっちゃんがぷっつんしておと君を攻撃しようとした瞬間すかさず“減点150点。”て☆一気にマイナスになる数字青筋頭に浮かべながら言ったの(笑)俺もそれ聞いて“ああこれは“止めてこい”って事かなー”って思って動いたんだけどねー☆」
「………減点150?何の点数ソレ」
「さっちゃんのある意味査定だよー☆」
「……、……ハァ……?」
そう言って明るく笑う金色の彼に朔馬が訝しげに細めた目を向けた。“今査定って言ったか?”と。
「……………ひょっとしてナニ、隠れて俺の審査してたってワケ?アイツの見極めすんの利用して?」
「言ってただの俺の自己満足だったんだけどね。別に本当に査定に響かせるつもりはなかったんだけど。ちょっと目に余ったからね、最後のあれは」
「………それで“減給”?」
「うんそう」
「……。勘弁してほしーんだケド」
「………まぁちゃんと理解して自分から謝ってきたからねー。反省してるみたいだし今回に関してだけは減給は免除してあげるよ。次からはもうないからきちんと心に留めて自分で自分の制御するようお願いするよさっちゃん」
それは、この学園に勤務する事になった時にも言われた言葉。“あくまでもここは“学園”だから非常時以外で“本職の顔”はなるべく出さないようにね、生徒ちゃん達がビックリしちゃうから”、と。なのにこの失態だ。
学園の責任者である赤い彼に再びそう釘を刺されても仕方がない。故に、“………分かった”と、珍しく素直に返事をして。
更に隣に立つ金色の彼へと視線を上げた。
「アンタも。手煩わせて悪かったな。止めてくれてありがと助かったわ」
「あははー☆俺の事は気にしなくてもいいよー☆簡単なお仕事だったしね☆」
「…………」
事も無げに軽い口振りでそう言われ。
圧倒的な実力差を痛感させられた朔馬がそれはそれで心底複雑だなと思いはすれど。
やらかしてしまった手前いつもの様な悪態などは付ける筈もなく。結果としてどこかムッと若干拗ねた様な顔をするだけにとどまった。
その様子がある意味可愛らしく思えたのか、赤い彼がふっ…と表情を緩めた。
「…けどまさか末娘さんが何気なく呟いた一言のフラグをあそこまで見事に回収するとはねー。ほんとビックリだよさっちゃん」
「………フラグ?」
「————はいはいはーい☆救急隊通りますよー☆良い子の皆さん道をあけて下さいねピーポーピーポー☆」
……と、そこで。
すこぶる楽しそうなお顔をして“我こそは救急車だ”と若草色の彼女が走り寄って来た。その手には保健室から借りて来たらしい救急セットが抱えられている。
「はいとうちゃーく☆患者さんはどこですかここですね、さっちゃんお怪我大丈夫ですかー?お疲れ様でしたー☆」
「………フラグって何のこと?何言ったの若草」
「……?何の話ですか?」
座り込んでいる朔馬の傍に膝を付きちゃきちゃきと救急セットの中から必要な道具を取り出しながら。若草色の彼女がきょとんと目を丸めた。“はて……?”と。そんな彼女にすかさず金色の彼が答える。
「おじょーさん言ってたじゃない☆“さっちゃんは負けず嫌いだから何かの拍子にぷっつんしなきゃいいですけどねー”って☆ほんとその通りになった☆」
「ああ!言いましたね私!確かに言いました!ひょっとしてこれ私予言的中ですか?予言者さんになれるです私?」
「予言も何もさっちゃんの性格理解してたら出る言葉だけどね。…でも本当その通りになるとはさすがに俺も思ってなかったかなぁ。さすがに、ねー」
「…………。」
これみよがしな言い方。にっこにっこと笑う笑顔。…SO, This is “HARAGURO”。
その事を暗黙の内に気付いた朔馬がすこぶる耳が痛そうな顔をしてふい…とそっぽを向いた。
「あははー☆そう言えばおにーさん、“さっちゃんは先生なんだから大丈夫でしょ”って言ってたもんねぇ☆“自分で煽った生徒に逆ギレなんかして怪我でもさせようものなら減給。プラスハリセン”って…あ、そうだ。ハリセンはいいの?おにーさん?☆」
「………」
耳が痛い耳が。
「ああそう言えばまだだったね減給は無しとしてもさすがにハリセンは撤回してあげられないかな。取り敢えずさっちゃん、頭出して」
「……、イヤ…」
「……お。甘んじてハリセンを頭に受け入れるかさっちゃん。素直でよろしいな。感心だ」
「、……だからイヤ…」
「さっちゃん今眩暈起こしてますからー。ほどほどにしてあげてくださいよ?おにーさん!」
……悉く被せられた。まさかの彼女にまで。頼むから最後まで言わせてくれ。
「ん〜そうは言ってもこれお仕置きだからねー。どうしようかなー?」
「…………〜〜〜〜」
「ほらほらさっちゃん、頭出して?ね?頭♪潔くバシッと一発受け入れようかハリセン。ね?♪」
にこっ☆
「っ———ヤダっツってんだろアンタら好き勝手ホント……!確信的にヒトの失態掘り返してんじゃねぇよ、ホント性格悪ぃ!」
「あはは、さっちゃんにだけはそれ言われたくはないかなぁ」
………そんなこんなで。
後からひょこっとやって来た白髪の彼女も混じえ朔馬のイジリ……もとい。一旦の雑談にひとしきり華を咲かせたところで。
にっこりと赤い彼が笑みを深ませた。“さぁそろそろ本題に入ろうか”、と。
「…………で?さっちゃん。どうだった?おと君は」
「………」
どうだったのかと一口に聞かれても、今回の雨音に関しては指摘をすべき部分が上から下まで幅が広過ぎる。
傍では若草色の彼女が丁寧に消毒液を吹き掛けて傷口に包帯を巻いてくれている。その手当てを受けながら朔馬は真っ直ぐに赤い彼の目を見た。
「………どっから話せばイーの」
「んーどこからでもどうぞ?って。言いたいとこだけど。一応これ実力を測る為の“授業”でもあるわけだし最終的評価から聞こうかな。——さっちゃん“先生”」
————“先生”。…それは、
「“先生”から見てのおと君の評価は?」
“生徒達に聞かせられる範囲内で”、という意味だろう。ならば先ず“上”からだ。
「……。いつも通りの成績1〜5評価で点数付けるなら間違いなく4か5だな。間取って“4.5”……いや、別にもう“5”くれてやってもイーわ。あくまで俺の受け持ちの範囲内でだケド」
「「 !!! 」」
朔馬のその言葉に“ザワっ……!”と大きく生徒達が揺れた。
「っ……“5”!?朔馬の授業で!?今まで誰も見た事ねぇんじゃねぇの!?」
「…、最高評価誰の何だっけ…」
「私最高で“3”かな」
「俺も“3”なら取ったことある」
「私こないだ“3.5”貰ったよ!すんごい強調して“オマケ”って言われたけど」
「……私いつも“1”ですよ。““1以下”にしないだけマシに思え”とかなんとかすこぶるお腹にくること言われますね」
「……夢ちゃん苦手だもんねほんと体術は…」
などなど。各々相当の衝撃を受けたらしい。
朔馬の評価はやたらと厳しいというのは生徒達の間ではもっぱら有名だ。それ故、今回たった一度の手合わせでその最高評価である“5”を叩き出した事。雨音の戦闘のスキルが如何に高いのかが伺える。
それも相まって生徒達は依然ざわざわと騒いでいた。
「………さっちゃん評価厳しいよね、生徒ちゃん達可哀想(笑)」
「もうちょっと評価の基準緩くしてあげてもいんじゃないですかー?もっとちゃんと褒めてから伸ばしてあげましょうよー」
「アホ抜かせ。体術は戦闘の基本だ、体の基盤作りも基礎としてやってんだからそこ緩くしたって何の得もねぇよ。そもそもアイツらちょっとイイ成績取ったらすぐ調子乗りやがるし。評価4、5が欲しけりゃ力ずくで俺からもぎ取れって話」
「!そんな事言って朔馬お前ー!俺らがちょっと頑張った時でも“まだまだダメ”とかなんとか言って全然高評価くれねぇじゃんかよ!付けてくれる気あんのか高評価!」
「そりゃ言葉の通り“まだまだ全然ダメ”だからだよ。評価4、5くれてやるには力が全く足りてねぇってこった、それなりに頑張った時はオマケで0.5プラスしてやってんだろ贅沢ゆーな」
「お前の感覚を基準にすんなー!ちゃんと学校の制度基準にしろー!」
「してるっつの。ちゃんとお前らの年齢加味して評価付けてるよ」
「ほんとかよ!?」
「…………この学園そんな基準制度なんてありましたっけ?」
「いや、無いねぇ(笑)授業の評価は各担当教師ちゃん達に一任してるから“攻”の体術授業の評価はさっちゃんの物差しが基準だよ。厳しいのはさっちゃんの匙加減(笑)」
「あははー☆やっぱり“さっちゃんが”厳しいんだ☆」
「!!ほらみろーーー!教師が嘘ついていいのかよ!この嘘吐き教師!」
「何言ってんのちゃんと後付けして言ったろ?“お前らの年齢は加味してる”って。誰もそんな制度基準にしてるとは言ってねぇアンタの早とちりだ」
「!?詐欺師みてぇな奴だなお前!物は言い様!」
「つかアンタさっきから小生意気な口利き過ぎな。評価下げんぞ」
「職権濫用っっ!!」
そんな和気藹々?としたやり取りを男子生徒と交わす朔馬に“仲良しさんですねー☆”と若草色の彼女が笑った。
一部の男子生徒は朔馬とはいつもこんな感じで絡み口調でのやり取りをしている。最早生徒と教師ではなくてただの歳の離れた兄弟……いや、言ってしまえばもう友達かのような口振りだ。
朔馬も朔馬でそれに対しては別段そこまで気にも留めてはいないらしく、学園内でもこうしてワイワイと騒いでいるのがよく目撃されている。
「あはは☆ところでさっちゃん、さっきのおと君の評価の“4.5”と“5”の差は何?やっぱり頑張った分のオマケとかなのー?☆」
「いや、そこは真っ当な理由。動きの運びが直行過ぎるんだよアイツ、攻撃が読み易い。緩急の付け方だとかフェイントかます事とかもっと覚えた方がイーな、って事で最初は4.5。ケドまぁ“あの状態”だからそこは仕方ねぇかなってトコ配慮したのと、後はもう全体的に見て実力確かなのに間違いはねぇわなって事で最終確定が“5”かな」
「なるほどー☆」
“スピードは文句ねぇわ。威力も歳の割には充分。純粋な戦闘スキルだけならもう確実に“5”だよ。他よりも頭数個抜けてる”
きっぱりと、朔馬はそう言い切った。
朔馬がこれ程までに純粋に生徒を褒めるのは珍しい。大抵、何かしらの文句……つまるところ“弱点”を見つけそれを一緒に指摘してくるという“タダでは褒めてはやらない”をするのが彼であるから。“文句はない”は、彼にとっては最大級の褒め言葉の一つなのだ。
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