遊びの部屋
□ハロウィン2017
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【ルシファーの私室】〜日常〜
若草色の天使「……これは何ですか?」
ルシファー「椅子。そこに座んの」
若草色の天使「…これは?」
ルシファー「テーブル。物置いたり作業したり飯食ったり…まぁ用途は色々だな」
若草色の天使「じゃあこれは?」
ルシファー「…タンスだよ。服とか物とか仕舞うとこ」
若草色の天使「……こっちのは何ですか?」
ルシファー「あーそれ?山羊型の悪魔の頭蓋骨だな。ただのインテリアだよ」
若草色の天使「……インテリア……ですか。じゃあこの…ふかふかしてそうな布みたいのは何ですか?なんだか気持ちよさそう……」
ルシファー「布団だよ布団。ベッド。そこで寝んの。つーかアンタホント何も知らねぇのな、さすがにビックリすんだケド。今までどんな生活してきてたんだよ一体」
呆れた様にルシファーはその綺麗な淡紫色の瞳を細めた。椅子に腰掛け組んだ足、そこに肘をつき手に乗せた顎でハァ…と息を漏らす。
若草色の天使「………………………」
それに対し天使は憂いを帯びた瞳で何処か遠くを見た。俯いた表情。
その瞳には一体何が映っているのか?ルシファーには知る由も無い。ただ碌でも無い事だという事は容易に察しがついた。この天使が最初からずっと纏っている何処か儚げな様子、それがより一層その濃さを増したから。
これ以上問い掛けを投げる事は辞めた方が良さそうだ、空気が暗くなる。
若草色の天使「……………………、」
天使が朧げにフッと小さく笑った。微笑って、“タンス” なのだというその自身の胸の高さ程の天板部分に置かれている謎めいた物体を視界に捉える。
そしてきょとんとその目が丸くなった。
若草色の天使「……………これは一体何なんですか?これもインテリア?」
ルシファー「それ?それはチェスってゆーの。ゲームだよゲーム、暇潰しの。やってみる?相手しろよ。ルール教えてやるから」
若草色の天使「ゲームですか……簡単ですか?」
ルシファー「ルール自体は至極単純だケド駒の動き覚えるのとかがチョットややこしいかもな初めは。戦略のゲームだし」
若草色の天使「……遠慮しときます…そんなにすぐに覚えられる気がしませんので」
ルシファー「やってくうちに自然と覚えるんだケドな。まーイイわ。んじゃまぁ……こっちのやってみる?オセロっツーんだケド。こっちのがまだ単純だ」
そう言ってルシファーは目の前のテーブルの上にオセロ台を置いた。まじまじと天使が眺める。
若草色の天使「……これなら私にも出来ますか?」
ルシファー「出来るんじゃね?ひっくり返すだけだし。こうやって……自分の色で相手の色挟む様に置いてその挟んだやつひっくり返すだけだ。最終的に石の数多い方が勝ち」
若草色の天使「……なるほど。これならなんとか私でも出来そうですねぇ…これやってみたいです!」
パァっと。それまで何処か虚ろだった天使の瞳に無邪気な光が宿った。
キラキラとした視線を向けた先で
ルシファー「………………」
堕天使がフッと笑った。
ルシファー「まぁチョットばかし色々とコツとかあんだケドな。その辺はやってたら分かるよ、自分で見付けろ。それまではとことんコテンパンにのしてやるから」
そう言ってニヤリとルシファーは笑った。からかい好きは彼の性分、その笑みはこれでもかと言う程に愉しげなものだった。
若草色の天使「お手柔らかに…お願いしますね?」
ルシファー「ナンで。それじゃ楽しくねぇだろーがボロカスにやられてヒィヒィ言ってるアンタ見るのが愉しみなんだよ俺は」
若草色の天使「………ルーちゃん意地悪さんですねぇ……」
ルシファー「悪魔だからな俺な」
若草色の天使「堕天使さんでしょ?」
ルシファー「もーイーよその返しは。飽きた。ホラ、やんぞ」
そう言って準備を始めたルシファーだったが
若草色の天使「………てゆーか……」
ルシファー「ナニ」
チラリと視線を上げた。
若草色の天使「…白黒なんですねぇ……この石……」
ルシファー「……だから?」
若草色の天使「ルーちゃんの羽のお色だぁ……綺麗……」
ルシファー「は?」
感嘆にも似た声色で。ほぅっと口にした天使。呆気に取られきょとんと淡紫の瞳が丸められた。
ルシファー「………綺麗?俺の羽が?」
若草色の天使「はい」
ルシファー「どこが」
若草色の天使「どこがって…全部ですよ。綺麗だと思います、その羽」
ルシファー「俺堕天使だぞ?羽の色ならアンタのが断然綺麗だろーが天使サマ。真っ白なんだから」
若草色の天使「私のは白いだけですよ、汚いんです。ルーちゃんの羽は本当に綺麗だと思います、その瞳も」
ルシファー「瞳?」
若草色の天使「はい。月夜色なんですよねぇ☆」
そう言って笑った天使はそれはそれは純粋な光を放っていた。
“その色味が大好きなのだ” と。言葉には出さずとも真にそう思っているという事が伝わってくる、そんな笑顔。
ルシファー「………………」
ルシファーは自分の中にあまり経験した事のない戸惑いが湧き上がるのを感じた。けれどそれは口には出さない。何なのか自分にも良くは分からなかったから。
そして代わりに問うた。
ルシファー「……ナニ?その月夜色っての」
若草色の天使「月夜色ですよ。お月様が昇ってる夜のお空のお色。淡くて優しい月夜色です」
ルシファー「なんだそれ」
若草色の天使「…私ずっと見てましたからね、そのお色ばかり。あのお色はとてもとても優しいんです。あのお色を見てるだけで心が溶けていくような気がしてましたから」
そう言って天使は上を見上げた。その先にあるのは勿論天井だが、今の彼女の瞳には恐らくその記憶の中の “月夜色” が浮かんでいるのだろう。月が照らす夜の空の色ーーー
ルシファー「………………」
そんな彼女に静かな目を向けつつ、ルシファーは言った。
ルシファー「そんな色と俺の目が同じ色してるって?へぇ…そりゃ光栄だな。どーも」
若草色の天使「へへ♪」
天使がにっこりと笑った。
ルシファー「……まぁなんでもイーわ。さっさとやるぞ。アンタ俺のペットなんだから無駄口ばっかり叩いてねぇで少しは主人の暇潰しにも付き合えよ。ホラ座れ」
若草色の天使「お喋りも立派な暇潰しではないです?」
ルシファー「…まぁアンタと話してたら面白ぇケドな。色んな意味で」
若草色の天使「?」
ルシファー「アンタみてぇなヤツ新鮮って事。俺黒な」
若草色の天使「じゃあ私は白ですね。お邪魔しまーす」
ルシファー「アンタの白俺の黒で塗り潰してやるよ」
そう言ってルシファーはニヤリと不敵に笑った。
若草色の天使「……………っ、真っ黒!!ひとっつも白がない!?え?これ私の負けですか?」
ルシファー「当たり前だろ。完膚なきまでの負けだよアンタ弱。弱過ぎ。勝負になんねぇ(笑)」
若草色の天使「当たり前じゃないですか私初めてさんなんですから!ルーちゃんが大人気ないだけです!」
ルシファー「俺手負いの獣追うのにも手加減はしねぇからな。寧ろとことんイビり倒す方」
若草色の天使「悪魔ですね!」
ルシファー「だからそーだっツってんじゃんか」
若草色の天使「…っもう一回!もう一回お願いします!もう一回!」
ルシファー「お?アンタ意外と負けず嫌いか?面白ぇ」
若草色の天使「なんか悔しいです!」
ルシファー「そーゆー奴コテンパンにノすのが愉しいんだよなぁ…血が騒ぐわ」
若草色の天使「ほんっと意地悪さんですよねルーちゃんて!……てゆーか」
ルシファー「ん?ナニ」
若草色の天使「私ってルーちゃんの非常食兼ペットなんですよね?」
ルシファー「そーだケド?」
若草色の天使「………扱いってこれでいいんですか?なんだかおかしくありません?」
ルシファー「ナニが」
若草色の天使「これ……単に遊んでるだけな気がするんですが……おかしいでしょ?」
ルシファー「言ったろ?暇潰しだ、って。主人の暇潰しもペットの立派な仕事だよナニ?嫌なの?ペットの分際で主人に文句とか言う気?」
若草色の天使「……いや……だって………」
ルシファー「だって何だよ。いい度胸してんなアンタな。言っとくケド俺聞き分けのねぇペットにはとことん仕置きするからな。覚悟出来てる?」
若草色の天使「………新鮮です」
ルシファー「あ?」
若草色の天使「嫌というか寧ろ新鮮ですこれ」
ルシファー「………………あっそ」
ー 第2話【新鮮】完 ー