遊びの部屋
□ハロウィン2017
22ページ/25ページ
〜エピローグ〜
包帯男「ーーーーーっ、何故なんだルシファー様……っ、何故………何故…………!!」
包帯の執事が羽根を手に胸へと押し当て悲痛に顔を歪ませる。
主の居なくなった部屋の片隅で。いつも、彼が座っていた椅子の前で。崩れ落ちる様にしゃがみ込む執事の姿。
ーーー あの日から、一度も。一度たりとも、主が戻って来る事は無かった。姿を見た者も居ないらしい。
包帯男「っ何故だ!!何故貴方が居なくならなければならないんだ!!…こんな筈では無かった!俺はただあの天使を!貴方から離そうとしただけ!あの天使の所為で………っ!!」
“貴方は確実に、死への階段を登って居たのだから!!” と。悲痛の叫び。
ルシファーの衰弱は著しいものであった。それはひとえに、彼女の存在。彼女が悲しむからと、彼が食事を摂る事を辞めたから。
……見ていられなかったのだ。そんな主を。
包帯男「………っ、っっ………!!」
椅子に屈伏し、悲痛に眉を寄せ唇を噛んだ。握り締められた二枚の羽根、白と黒二対の羽根
ーーーーー 彼の羽根。
包帯男「………、俺の所為だ……俺の……………俺の所為……で…………っ」
猫を此処へと引き入れたのは自分。
ーーー 貴方の為に。
それによって天使は連れ去られた。
ーーー 貴方の為に。
彼はその後を追った。
ーーー 何故あいつなどの為に…
そこで天使は死んだらしい。
ーーー……様は無い。
何がどうなったのかまでは知らないが彼は力を取り戻し…否、更に力を得たらしく。魔女の城ごと全てを焼き払った後此処へと戻って来た。自分の元へ。
そして全ては元に戻る筈だった。居なくなった天使、戻って来た主。全ては元通り。
そして自分は更に力を増した主の元これまでと同じ、寧ろそれ以上に。主に尽くす筈だった。なのにだ。
包帯男「……………、何故……貴方までもが消えてしまったのですかルシファー様………何故………」
ーーー……俺の所為だ……俺の……俺の……所為、で………ーーーーーーー
包帯男「………っ、っっっっっっっっっっっっっっっっ、っっ!!!!!!」
言葉にならぬ心の叫びが包帯にまみれた執事から木霊した。
包帯男「……………………………」
…同時に。憔悴が湧き上がる。もはや彼の瞳には何も映ってはいない。居なくなってしまった主。何よりも誰よりも大切であったその存在。自分の全て。
……それが。ーーー 自分の、所為で……ーーーーーーーー
包帯男「ーーーー……………、ルシファー様………………………」
切なげに手の中の羽根を見つめた。
………もう、此処に主が戻って来る事は無いのだろう。確信めいた感覚が、執事の中で大きく膨れ上がる。
それと同時に、もう………自分には存在する価値は無いと、そう…思い至った。
包帯男「…………………………」
包帯の執事がフッと小さく微笑った。
包帯男「……………お供する。ルシファー様……俺は…貴方の為だけに……」
“生きていたのだから……” と。浮かべた笑顔に、一筋の涙。立ち上がった執事の体を纏う包帯がスルスルと解けていった。露わになったボロボロの袖の無い黒い服。
その破れた隙間から。心臓の上、見えたその肌にーーー 仄かな淡紫。浮かんでいるのは “ルシファーの紋様”。包帯が無くなった事で露わになった手足、体には…至る所に縫い付けた痕が点在している。更には首にまで。ツギハギだらけのその身体。
………自分は一度、死んだ身だった。誰かに切り刻まれて死んで、偶然それを見たルシファーの気まぐれな情けだけで生き返り生き長らえていたただの死体。
“包帯男”。表向きはそう名乗っていたけれど……その包帯の下に隠された本当の自分の生は。だだの屍。屍人形。“フランケンシュタイン”ーーーー
屍人形「…………今参ります」
屍の執事は手の中の羽根に向けフッと穏やかに笑った後。ゆっくりと足を動かした。向かう先は “城の出口”。
ゆっくりとゆっくりと城の廊下を歩き続けた先で。辿り着いた入口の大扉。ギギギ……と重い鋼鉄製の扉が開く音が聞こえたと同時に、明るい光が。薄暗い城の中を眩しく照らした。
屍人形(…………ルシファー様………ーーーーー!)
やがて執事の体がその光の中に消えていった。
.