遊びの部屋

□ハロウィン2017
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〜エピローグ〜











包帯男「ーーーーーっ、何故なんだルシファー様……っ、何故………何故…………!!」

包帯の執事が羽根を手に胸へと押し当て悲痛に顔を歪ませる。

主の居なくなった部屋の片隅で。いつも、彼が座っていた椅子の前で。崩れ落ちる様にしゃがみ込む執事の姿。


ーーー あの日から、一度も。一度たりとも、主が戻って来る事は無かった。姿を見た者も居ないらしい。

包帯男「っ何故だ!!何故貴方が居なくならなければならないんだ!!…こんな筈では無かった!俺はただあの天使を!貴方から離そうとしただけ!あの天使の所為で………っ!!」

“貴方は確実に、死への階段を登って居たのだから!!” と。悲痛の叫び。
ルシファーの衰弱は著しいものであった。それはひとえに、彼女の存在。彼女が悲しむからと、彼が食事を摂る事を辞めたから。

……見ていられなかったのだ。そんな主を。

包帯男「………っ、っっ………!!」

椅子に屈伏し、悲痛に眉を寄せ唇を噛んだ。握り締められた二枚の羽根、白と黒二対の羽根

ーーーーー 彼の羽根。


包帯男「………、俺の所為だ……俺の……………俺の所為……で…………っ」


猫を此処へと引き入れたのは自分。

ーーー 貴方の為に。

それによって天使は連れ去られた。

ーーー 貴方の為に。

彼はその後を追った。

ーーー 何故あいつなどの為に…

そこで天使は死んだらしい。

ーーー……様は無い。


何がどうなったのかまでは知らないが彼は力を取り戻し…否、更に力を得たらしく。魔女の城ごと全てを焼き払った後此処へと戻って来た。自分の元へ。

そして全ては元に戻る筈だった。居なくなった天使、戻って来た主。全ては元通り。
そして自分は更に力を増した主の元これまでと同じ、寧ろそれ以上に。主に尽くす筈だった。なのにだ。


包帯男「……………、何故……貴方までもが消えてしまったのですかルシファー様………何故………」


ーーー……俺の所為だ……俺の……俺の……所為、で………ーーーーーーー


包帯男「………っ、っっっっっっっっっっっっっっっっ、っっ!!!!!!」


言葉にならぬ心の叫びが包帯にまみれた執事から木霊した。


包帯男「……………………………」


…同時に。憔悴が湧き上がる。もはや彼の瞳には何も映ってはいない。居なくなってしまった主。何よりも誰よりも大切であったその存在。自分の全て。


……それが。ーーー 自分の、所為で……ーーーーーーーー


包帯男「ーーーー……………、ルシファー様………………………」


切なげに手の中の羽根を見つめた。
………もう、此処に主が戻って来る事は無いのだろう。確信めいた感覚が、執事の中で大きく膨れ上がる。

それと同時に、もう………自分には存在する価値は無いと、そう…思い至った。


包帯男「…………………………」


包帯の執事がフッと小さく微笑った。


包帯男「……………お供する。ルシファー様……俺は…貴方の為だけに……」


“生きていたのだから……” と。浮かべた笑顔に、一筋の涙。立ち上がった執事の体を纏う包帯がスルスルと解けていった。露わになったボロボロの袖の無い黒い服。

その破れた隙間から。心臓の上、見えたその肌にーーー 仄かな淡紫。浮かんでいるのは “ルシファーの紋様”。包帯が無くなった事で露わになった手足、体には…至る所に縫い付けた痕が点在している。更には首にまで。ツギハギだらけのその身体。

………自分は一度、死んだ身だった。誰かに切り刻まれて死んで、偶然それを見たルシファーの気まぐれな情けだけで生き返り生き長らえていたただの死体。

“包帯男”。表向きはそう名乗っていたけれど……その包帯の下に隠された本当の自分の生は。だだの屍。屍人形。“フランケンシュタイン”ーーーー


屍人形「…………今参ります」


屍の執事は手の中の羽根に向けフッと穏やかに笑った後。ゆっくりと足を動かした。向かう先は “城の出口”。

ゆっくりとゆっくりと城の廊下を歩き続けた先で。辿り着いた入口の大扉。ギギギ……と重い鋼鉄製の扉が開く音が聞こえたと同時に、明るい光が。薄暗い城の中を眩しく照らした。


屍人形(…………ルシファー様………ーーーーー!)


やがて執事の体がその光の中に消えていった。




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