徒然会話・小話(鬼灯学園パロ)

□見極め
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「——“凪”、“流”」


一直線に朔馬へと向かうその動きの中で、放たれた言葉。彼の術補佐具の名。

普段の拙げな声とは打って変わった、秀麗ささえも感じる声色。
鈍く沈む湖色はただ真っ直ぐに“群青色”へと見据えさせたまま。自身の両の手から発せられた渦、そこから舞う水飛沫を身に纏いつつ真っ直ぐに朔馬へと向かった雨音が一撃目となる横蹴りをその喉元へと叩き付けた。


(……、思ったより)


しかしながらまだ余裕を持って躱された初手。軽く後ろへと体を退きそれを避けた朔馬に、全く動じる事なくその流れのまま次手となるニ撃目を叩き込むべく雨音はくるりと体を回転し後回し蹴りを同じ箇所へと向かわせる。
……同時に


(数倍は速ぇなコイツ……!)


同じようにして躱された二撃目、の、直後。
躱されるとほぼ同時に、既に手に現れていた深淵と浅瀬のグラデーションが目に飛び込む二枚の扇を勢いよくクロスさせ朔馬の喉元目掛けて鋭い水の刃————横一閃の斬撃を打ち飛ばした。


「————、」


すぐ様後転してそれを避ける。

僅かながら距離をあけた自分に、一瞬たりとも間を置かず雨音もまた何事も無かったかのようにして距離を詰めて来た。……振り抜かれた扇


(…………。……ホント…)


“舞武”。

その言葉が、ピッタリと当て嵌まる。

息つく間もない程に優雅で秀麗な舞踊の撃。上へ下へ、跳び屈み体を回転させては両の腕を広げひろく横からも放たれる斬撃の嵐。放つ度に舞う水飛沫をくぐる様にして雨音は動き続ける。


(的確に急所ばっか狙ってくんな。狙いは正確。………ケド)


舞い踊るかの様な雨音の扇の動きに合わせ。上下左右いたる方向から迫る水の斬撃を、されど忍びならではの俊敏な体捌きで全てを朔馬は避け続けていく。


(急所(そこ)ばっか狙うから次何処に攻撃が来るか筋大体全部読めるわ。そこはまだ甘ぇな。………まぁ、“相手を殺す手段”なんざ覚えなくてイーんだケドなごく普通のガキは。里衆(俺ら)じゃあるめぇしさ)


軽く後転して避けた先で。
朔馬はスッと、その動きを止めた。


「………」


目前に迫る水の刃。

瞬間的に腕に纏わせた“風”のチカラ。それで、払い退ける様にして、目前に迫った斬撃を打ち払った。


「……そんなモンか?」

「………」


変わらぬ仄暗い瞳。反応は一切無い。

迫る動きはそのままに、雨音がスッと扇を深く構えた。微かに感じるチカラの込められる気配


(……ちょっとデケェの来るな)


左は前に、横一閃。
右は下からの、煽ぎ上げ。

今までよりも遥かに大きく広範囲な横斬撃の水の一閃————と、突如。


「!」

「———“起(た)ち、聳(そび)え。“流壁””」


凄まじい水音と共に。
朔馬の背後に高圧高波の壁が立ち昇った。瞬間的に術に前後を挟まれる。


(……、っ…術の展開も速ぇ。戦いのテンポ申し分ねぇなコイツ——)


胴体を真っ二つに斬り離す勢いで放たれた大きな水流の斬撃は広く横へと広がっているから上へ跳べば何の問題も無い。無いが。
無論、今上へと跳べば背後に迫る高波に呑み込まれてしまうだろう。空中でバランスを崩すのはなるだけ避けたい。

そんな、刹那の状況判断を可能にしたのは紛れもなく積み重ねてきた経験値——朔馬の戦いに於ける研ぎ澄まされた感性だ。
反射的に朔馬の体は下へと深く屈んで斬撃を避けた。頭上のすぐ上を鋭い水流が背後へと過ぎ去っていく。

斬撃はそのまま後ろの高波を真一文字横に大きく斬り裂いて向こう側の景色を波の間に映した。
ザザザ——と、水壁が崩れる激しい水音が辺りで唸る。


————すると、目の前に


「————!!」


眼前。至近距離。

…鈍色の、湖色が。無感情に、無機質に。詰め寄った。
舞い散る水の飛沫がふたりの視線の間で一瞬だけ時が止まったかの様にして揺れ浮かぶ。

——————放たれた一撃。


「……っ、ッ————!!」


地面すれすれを平行に激しく駆け抜けた雨音の強烈な一撃。
咄嗟に地面を強く踏み威力の弱った高波を突き抜けるまで大きく上へと跳び上がった朔馬。その両者の動きの軌跡が

激しい風圧と共にドッと大きく音を轟かせた。


(————ッ……イイ追い討ちしてくるじゃんアイツ……!逃げ場無くして追い込むとかそんなん絶対考えたりはしてねぇくせに詰めがクソかってくれぇ鋭ぇ…!………コレ、舐めてたら足元掬われるな……)


そんな事を考えながら鋭く眼下を睨み付ける。
高波を突き抜けた事で濡れそぼった体。滴る水がぱらぱらと宙を舞って。

ふわりと、一瞬止まった朔馬の動き。重力の働きにより後は下へと落ちていく、そんな、自然の動き。それに合わせ————て。またも


「!!」


間髪など一切入れず。
今しがた自身が抜けて来た高波の同部分を、凄まじい水圧の水龍が突き抜け。

大きく口を開けて。その体を呑み込まんと、昇り迫り来る。


「……、チッ……!容赦ねぇなホント……!確実に仕留め上げるまで攻撃止めねぇとかおっそろしいガキ。ぶっ飛んでやがるわマジで」


ザワリと、朔馬の周りの気が動き出した————


「………——————」


……瞬間。朔馬の足元に突如突風が渦を巻く。

激しい風圧が昇り迫る水龍をぐっと押し留め朔馬の体を空中で支えた。
宙を吹き荒れる風。彼の見事な群青色の髪がその風に逆撫で靡かせられる。

垣間見える首元————服の下、左上腕部分から伸び上がってきた紋様。灰色の、彼が“鬼”の血を受け継ぐその証。
頬まで伸びて来たそれが瞳に差し掛かると、その瞳もまた淡い紫暗から鮮やかな紅へと染まっていった。————“鬼化”。その完了の、確かな合図——————


「…………」


朔馬は基本、術を行使する際は“無詠唱”だ。
各自能力の精霊にチカラを借りる為に必要な“祝詞”は、彼には基本的に必要無い。

必要なのは身の内に流れる祖先の“鬼”の血を全身に巡らせる事だけ。それが“鬼化”。

それは彼が“鬼”の子孫故か、はたまた彼自身が特別“自身のチカラの精霊に好かれている”からなのか。
…それとも、彼の持つ“言霊”がそれを可能にしているのか。そこは現状、ハッキリとはしていないけれど。

“無詠唱”で術を放てるという事は、即ち術の行使がその分だけ速いという事。
彼にとっては正に、戦闘に於ける一つの強いアドバンテージとなっているだろう。彼が唱えるのは、行使する“術の名”だけ——————


「——————“螺旋(らせん)”」


冷淡に光る、紅の瞳。それが見下ろす先。

今まさに、自身を食わんとすぐ足元まで迫って来た大きく広げられた水龍の口腔———その喉奥ど真ん中目掛け

凄まじい勢いで渦から発生した鋭い竜巻がドォンという轟音と共に一瞬で大地まで水龍を縦一閃に貫いた。





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一旦ここまでー☆
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