徒然会話・小話。(アナザー大罪)

□【2019.08.23(金)】HAPPY BIRTHDAY !!!☆☆
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桜華「ーーーあ!朔馬さーん!☆朔馬さんと若草様ご夫婦ってやっぱ凄いね!ねっ☆やっぱり運命の赤い糸で結ばれてたんだよ生まれる前からってゆーか、朔馬さんが若草様に逢うべくした日に生まれて来たって感じーさっすがっ♪ほんとにもー朔馬さんどこまで若草様大好きなのよ私にまけてきちゃーう♪♪ほんと運命のご夫婦だよねーって♪」

朔馬「………………。……いきなりなんなの」


開口一番。本当に、ふらりと様子を見に来て目が合った開口一番にそう言われ朔馬は心底返す言葉の選択に困った。桜華の話の唐突さには度々ついていけない。

見れば皆でお茶片手に雑談に花を咲かせていたらしく、場である識水の家の縁側ーーー 庭先には、夢、姫夢、奏、白髪の彼女、そして識水。この家に住まう一家の面々全員が揃っていた。“群青義兄様何か飲まれますか?” とどこか謎めいた笑顔で嬉しそうにおもてなしをして来た姫夢に “や、チョット見に来ただけだから。イーわありがと” と返した朔馬のその桜華との温度差著しい心境を察した識水が、同情から来る苦笑を浮かべつつ説明という名の補足をする。

識水「…朔馬殿は “花個紋” というものがある事を知っているかな?」

朔馬「?花個紋?ナニそれ」

夢「誕生花然り。365日全てに存在してる花を象った紋らしいですよ、今その話で盛り上がってまして」

朔馬「アンタのそのツラと声色には “盛り上がってる” って言葉の説得力がカケラも感じらんねぇんだケドな、まぁソレはどーでもイーとして。ソレが?」

姫夢「お師匠様が皆のお誕生日の花個紋とそれぞれ固有の意味を教えてくださってましたのだー♪ひめは “三階花茶(さんがいはなちゃ)” というお紋らしく “言葉” は “おもてなし” なんだそうで♪母さまもご一緒ですのだー♪」

…ああ、だからさっきやたらと嬉しそうに “おもてなし” してきたワケね…と、朔馬は内心で納得をした。

奏「かなちゃ……私は “風舞い花虎の尾(かざまいはなとらのお)” というお紋で、“言葉” は “達成” なんだそうです♪」

桜華「私はねー、卯月の六日だから “浮線陵桜梅(ふせんりょううすらうめ)”ー♪ “心酔” って言葉らしいんだって!まんまだねって皆に言われた(笑)」

朔馬「へぇ、そんなのあんのな。つーか……母さま、って事は…アンタも “もてなし” ?………ふーんそー…」

夢「今日はやけに突っ掛かりますね群青義兄様。一体何の喧嘩日和ですか」

そんな場の和気藹々とした雰囲気を実に微笑ましそうな目で眺めつつ、感じる和やかさに白髪の彼女は柔らかに微笑った。

白髪の彼女「…しぃちゃんは実に物知りだ。誕生花辺りならばその存在は至って有名なものであるが一般的に花個紋はあまり普及してはいないものであるからな。ゆいゆいちゃんならば兎も角としてここまで詳しく知っているのには少々驚いた」

識水「たまたまにね、そういった書物を読む機会があっただけですよ」

桜華「お師匠様結構色々と雑学知ってるもんねぇ。暇さえあれば本の虫してるの伊達じゃないって感じ」

夢「お家の裏の書庫蔵がもうカオスな状況になってますもんね。あそこいつになったらお片付けするんですか」

識水「…そのうちかな?(笑)」

夢「いっそのこともう図書館でも始めては如何ですか」

識水「あはは、本の種類が大きく偏ってるからそれは無理だよ夢嬢。所詮は趣味の産物さ」

朔馬「ふーん、さすがは いんてり系ってヤツか?アンタ。歴史の探求やら雑学の収集やらと仕事の片手間に忙しいこった」

識水「お褒めに預かり光栄だね」

朔馬「別に褒めちゃねぇケド。……で?それと関係あるってワケだな?出会い頭アンタの俺に対するあの絡みは」

桜華「“絡み” とか超失礼ー。“お話” って言ってよねー朔馬さんっ」

ぷーっと。そう言ってむくれっ面を浮かべた桜華。いや開口一番にあんな話し掛けられ方したら誰だって “絡み” って言いたくなるよな?な?そう思うだろ?という朔馬の心の内の言い分は誰にだって分かるだろうものだが。残念ながら桜華には通じず。

しかしながら朔馬の言った見解は正解だったようで、場の面々がその事を思い出しふっと華やかな表情を浮かべた。嬉しそうに笑って奏が告げる。

奏「群青義兄様のお誕生日、師走の二十二日ですよね?」

朔馬「…そーだケド……ナンで知ってんの」

姫夢「去年若草姉様が張り切っていらっしゃいましたのだー☆」

桜華「ねー☆愛されてるよねっ、ねっ♪愛しの旦那さーん♪」

朔馬「ウルセェ」

夢「照れなくてもいいじゃないですかあれですか?これが噂に聞くムッツリとやらですか群青義理様意外とムッツリさんなんですね。勉強になります」

朔馬「💢アンタも黙ってろ」

識水「……師走の二十二日はね、一年でただ唯一。“躑躅” の花個紋を冠している日なんだよ朔馬殿」

そんなやんややんとした空気に、すっと一つ。水面の様ななんとも言えない色を落とした識水の言葉に苛立ちに顰めていた目を小さく見開いて朔馬が一瞬動きを止め識水を見やった。にっこりと笑んだ透明色と月夜色の目が合う。

白髪の彼女「正確には “葉付き西洋躑躅(はつきせいようつつじ(あざれあ))” という紋でな。その “言葉” は “万能” という意を持つ。なかなかどうして、そなたに打って付けではないか。海色の坊」

桜華「だよねー☆朔馬さんほんっと万能だもん、まんまの意味でも違う意味でもー」

奏「ですねっ。若草姉様にとってこれ程万能な方おられませんですし☆」

姫夢「ですのだー☆」

夢「正に貴方にぴったりな日ですよ、嫁馬鹿義兄様」


朔馬「………………」


…何かを考えている、とも。どこか想いを馳せている、もしくは少し放心している、とも取れる、少し言葉を失った様な状態で朔馬は動きを止めたまま。そんな夢達からの言葉には何も答えずに小さく目を見開いて佇んでいる。

その姿に “ああ、何かしら感じているんだな” と。思った面々の表情が柔らかく微笑みに彩られたのは言うまでもない事。本当にこの夫婦は微笑ましい夫婦だ。その背景にあるものも含め、ふたりの互いを想い合う心を知っているこの夫婦を見守る周りの者達の皆が皆ふたりのしあわせを願ってやまないのは必然と言っていい。“ふたりのしあわせは私達のしあわせ” だと、言わんばかりに場の面々に嬉しそうな空気が滲む。

白髪の彼女「……本当に。娘は良い殿御の元に嫁がせて頂けた事だ」

朔馬「………そー」

桜華「嬉しいんでしょ?ねぇねぇ。朔馬さん。自分のお誕生日の花個紋が “一年で唯一” の “躑躅” だった事が嬉しいーって。お顔に書いてあるよー?にまにまー☆」

朔馬「ウルセェ」

夢「だから照れなくてもいいじゃないですかって。そりゃ喜びますよ誰だって自分が一番大切に想ってるお相手のお花が自分のお誕生日、しかもそれが一年でたった唯一その日だけ、だなんて。一体どんな運命かって思うじゃないですか」

奏「素敵ですー☆」

姫夢「ひめもお話聞いてときめいてしまいましたのだー☆ひめたちも嬉しいですー☆」

朔馬「……………あっそ」

と、そんな気の無い返事を一言だけ返した朔馬。…ではあるが、言うまでもなくこれは彼の性格上のことだ。
素直に物を言う事を知らない彼の、けれども悪い気などしてはいない、そんな、天邪鬼な対応。本当に何処までも素直ではない男である。

識水「…今年の朔馬殿の誕生日は何か花個紋にちなんだ物を贈らせてもらおうかなぁ。僭越ながら」

白髪の彼女「では我はささかながら躑躅の花を使ってまた酒でも作ろうか。樽三つ程…」

夢「澄さんだけだと濃度が心配なのできちんどまた手伝いさん呼んで来て下さいね。群青義兄様が悪酔いしたら介抱する若草姉様が大変ですから、いろんな意味で」

朔馬「どーゆー意味」

桜華「朔馬さんはほんと意地悪だってことだよー自覚あるでしょ?ていうかお師匠様、さっきのお話の続きなんだけどー」

そんな言い捨てられた言葉に再び目を顰めた朔馬を放置して彼が来る直前まで交わしていたらしい話の内容の続きを桜華が話し始めた。“ん?” と識水が桜華を見やる。

桜華「“躑躅” ときたらこれ聞くしかないでしょーって☆ずばり!“月下美人” のお花の花個紋の日ってあるの?☆」

識水「うん、あるよ。月下美人の花個紋の日は二つ…かな。ですよね白髪殿」

白髪の彼女「うむ。二つだな」

奏「!いつといつですかっ?」

識水「一つは確か水無月の十七日。“陰月下香(かげげっかこう)” と言う花個紋でね、三日月の上にいくつかの月下美人の花が並んで香りが立ち込めている様な形の花個紋だよ。“言葉” は “魅力”。物静かかと思えば情熱的だったり、と、軽やかに変化する魅力を持つひとと言う意味だよ」

桜華「!へぇー!素敵だねぇっ☆もう一つは!?」

目をキラキラと輝かせて食い付く桜華。にっこりと笑って、今度は白髪の彼女がその質問へと答える。

白髪の彼女「もう一つは葉月の二十三日だな。こちらは一輪の月下美人を真正面から捉えた図の上に三日月が掛かったような形の “向う月下美人(むこうげっかびじん)と言う花個紋だ。“言葉” は “嬌艶” 。文字通り “艶やかさと同時に愛嬌さも兼ね備えた魅力的な者”、と言う意味の花個紋だ」

奏「わぁ☆どちらも素敵ですー☆若草姉様にぴったりですねぇ♪」

桜華「だねぇ♪あーもーやだっ、私にまけてきちゃーう☆それこそこれっ、若草様のお誕生日がこのどっちかとかだったら私もうにまけすぎて昇天しちゃうか…も……………」

と、感じるテンションに流されるがままにそこまでを言って。…ふと、桜華が何かに気付いた様な表情を浮かべバツが悪そうに言葉を噤んだ。己の発言に対し失言を感じたらしい。

桜華「………、若草様…の、お誕生日って………いつだか分かんない…ん、だよね…白髪様………」

白髪の彼女「…そうだな。我らが気付くその前に捕らえられ長らく助け出してはやれなかったからな。生まれた日はおろか季節すらもいつかは分からぬ。本当に娘にはすまぬ事をした。全て、我らが原因であり我の落ち度だ。すまぬおうちゃん」

桜華「っっ!!そっ、そんな事ないよっ!!白髪様何も悪くないじゃないっ謝らないで!!私も考え無しに物言っちゃってごめんなさい…嫌なこと、思い出させちゃったね……」

…しゅーんと。それまでの嬉々とした様子は陰を潜め、落ち込んだ様子を桜華は見せた。

それは側に居た奏、そして姫夢にも伝染し、同じ様に悲しげな色をその顔に浮かべさせ言葉を噤ませる。その様子を見て識水が何処か哀愁漂う苦笑を浮かべた。まるで自分のことの様に、痛みを感じて顔を沈ませている彼女たち。無論それは、彼女たちだけではない。


朔馬「…………………」


大切な大切な嫁、自身の最愛の伴侶。その相手の過去の深い傷にこの男が何も思わない訳はない。神妙そうな無言で場から視線を外して、何かを思慮する表情で朔馬は遠く彼方を見つめた。



…実は、その事についてはここ最近朔馬もふと考えた事がある。特に強く意識し始めたのはこの皐月、水無月にかけてくらいだったろうか。彼女は必ずと言っていい程に、誰かしかの “誕生日” には祝いの品を持ってその相手を祝福していた。

里で言うと睦月は玄斎、如月は呉葉。春の芽吹の誕生日にはそれこそ嬉々として、皐月には夏柝とナツメ、そして先月水無月には浮里、と。その全部が全部ではないが自身が里内に居る時はその様子を直に朔馬も目にしていた。

それは勿論里の衆ばかりではない、里の外でも。彼女は必ず、その日が誰かの誕生日であるならば必ずその相手を祝うために外出をしていた。そして夜話してくれるのだ。“今日は誰それの誕生日だった”、と。“何々を持って行ってお祝いしたら喜んでくれたから自分もとてもとても嬉しいのだ”、と。まるで、自分の事の様に。嬉しそうに話してくれる彼女の満面の笑顔が印象的で。

だからこそふと思った。何故いつも彼女なのだ、と。自分ではない自分以外の者達の幸せを願い続ける彼女は、消して自身でそれを受ける事はない。誕生日だっていつも “自分以外の誰か” のもの、それを自分の事の様に喜ぶ彼女は、けれども “自身の誕生日” を祝ってもらう事などある事は無かった。そしてそれをさも “当たり前のもの” として疑う事すらもしていない。自身の “誕生日” は “無いもの” として当然にも思っているから。だってそれが彼女からすれば全てなのだから。“自分の “誕生日” なんてものは無い、生まれた時期・季節すら分からぬ自分には ““誕生日” なんてものは無い” んだ、と、それが彼女の中での “常識”ーーーー



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