徒然会話・小話(鬼灯学園パロ)

□見極め
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本日は晴天、絶好の体育日和。
“攻”の体術の授業を受けるべく校庭に集まっている生徒達——の、中に。初めましてなお顔が一名見受けられた。

「さておと君。今日が初めての“攻”体術の授業……所謂群青先生による“いびり”のお時間への初参加ですが。転ばないようにと、あとお怪我には充分注意して下さい」

「……け、が……だめ……?」

「そうです。お怪我にはくれぐれも気を付けましょうね」

転校生である雨音。その記念すべき攻体術授業への初参加に保護者モードを全開にした夢がこんこんと注意を促す。

そして、隣からも

「朔馬先生はほんっと、意地悪の権化みたいなひとだからねー?無茶振りされる事もしょっちゅうあるからほんと、無理だけはしちゃダメだよ!無理だけは!“えー”って思ったらすぐにこう…頬っぺた膨らませて“ぶーぶー”って。これ。“ブーイング”って言うんだけどね?これ。これすればいいから!ね?雨音くんっ」

「……、ぶー、ぶー…?」

「そうそう!♪雨音くん可愛いっ♪」

そう言って拙い仕草でブーイングの真似事をしてみた雨音。ブーイングをするというよりもまるで風船を膨らませているかの様なその可愛らしい仕草に、堪らないといった様子で桜華がきゃっ、と一つ笑った。

そんな和気藹々とした空気……で、されど地味に結構な貶しをしてくれた生徒らを担当教師である朔馬が小さな溜息一つ吐いて見やる。

「アンタらホント、よく好き勝手言ってくれるよな。そんなにいびりと無茶振りをこれでもかってくれぇ食らわされてぇのか?」

「ね!?ほんと意地悪だからこの先生!」

「……い…じ……わ…る……?」

「いい性格をしています、本当。安定的に」

「アンタにだけはソレ言われたくねぇわ。アンタも充分過ぎる程イー性格してるよ、自覚あんだろ」

言いながら手に持っていた授業用のファイルをトン、と肩で鳴らして。
……さて、と一つ、切り替えた声色。細めていた目をいつもの不敵な笑みに戻して、朔馬が雨音を見た。

「つーワケで今日からそこのポヤ男(お)も授業に加わるから。紹介云々はもう他でうんざりするくれぇやってるだろーし授業に関する説明はココでは省くわ。聞くより体で慣れろ、それが一番早ぇ」

「ちょっと朔馬先生!ポヤ男ってそれもしかしなくても雨音くんのこと!?ひっど!他にもっとまともな呼び方ないわけ!?」

「百歩譲って虐めです。きちんと訂正して下さいポヤ男なんて名前はありません。おと君はおと君です。謝罪を要求します」

「分かりやすくてイーだろ。ポヤポヤしてんだから」

「断固拒否だよ反対ー!もっとちゃんと呼んであげてよ!」

「そーゆーアンタも呼び方“犬っコロ”なんだケド?」

「それもどうかと思う!けど!私と雨音くんとじゃ先生と関わってきた期間が違うんだから初めましてな今の時期くらいもっとちゃんと呼んであげて…」

「花さんがわんこっぽいのは何となく分かる気がするので。私はそこは的を得ていると思います。が。おと君は別です。変更して下さい」

「!?ちょっと夢ちゃん!?」

そんな彼女らにくっくと愉快げに喉を鳴らして。
しかしながら取り敢えずまぁ授業は進めなければならない。このままいくと軽く授業の半分の時間が雑談だけで終わってしまいそうだ。他数人の生徒らも待たせている事だし…と、朔馬は徐に話を切り替える。

「まぁそーゆーこったから。取り敢えず授業……を、してぇトコなんだケド。ポヤ男」

「……?」

声を掛けられた方向、に。ほわほわとした表情を雨音が向けた。

「先ずはアンタの“現状”。ソレを俺がキッチリと把握しとく必要があってな。今から俺とアンタで軽く手合わせするから。動く準備してくれる?」

「……てあ……わせ………?」

『少しだけ戦ってみましょうって事よ。先生と。雨音が今どのくらい強いかを知りたいんだって、用意しましょうか』

きょとん、とした表情を浮かべた雨音にそう補足を述べたのは、雨音を見守っている神様である“勾玉”。
ほぼほぼ初対面である“群青色”にいきなり“戦おう”などと言われ、雨音の頭の上には絶賛疑問符が浮かんでいる。そんな雨音を行動に移させるべく、勾玉がさっと指示を出す。

『取り敢えず先生をたおす気で向かって行きなさいな。先生だから多分大丈夫。怪我とかしないわよ』

「…たお……す………やっ…つけ…る……?」

『そう』


「……………」

そんなふたりのやり取りを、じっとその紫暗の瞳で見つめて。
何か考えを巡らせている様子を朔馬は見せた。


(…………どーすっかな…)


“倒す”。……も、まぁいいだろう。

要は“全力で”向かって来てもらえればそれでいい。…の、だけれど……
朔馬の中で、“倒す”という言葉がどうにも腑に落ちなかった。どうにも、何かが違う……


雨音の事情は既に知っている。その過去の凄惨さから心を壊した彼は“指示をされなければ自らでは動けない”事も無論把握済みだ。

……故に。“最初の指示”が一番肝心となってくる。“倒せ”と言われれば勿論全力で向かって来るだろうけど。
何かが違う、何か足りない。そんな、些細な違和感のようなものが朔馬をじっと思案させた。

……そして……

「……取り敢えず俺に指示出させて貰ってイイ?“勾玉”?だっけ?」

『?何かしら?』

雨音の最大の保護者である“勾玉”に許可を貰う為。言葉を掛ける。

「ソイツアンタの言う事をいの一番に聞くんだろ?ちょっとソイツに出したい指示があるから。今から“俺の言うことを聞く”ようソイツに言い聞かせてくんねぇ?“現状”把握すんのに必要なんだわ」

『……?何だかよくわからないけど……変なこと指示しないわよね?』

「心配すんな。ソイツに非がいくような指示はしねぇよ。あくまでも俺が“現状”把握しときてぇだけ」

『……………わかったわ』

そして勾玉は、言われた通り雨音に諭し聞かせ始めた。

『いい?雨音。今からあの先生があなたに“指示”を出すから。あなたの“現状”を測るのに必要な事らしいの、しっかりと先生の話を聞いて、あの先生の指示に従いなさいね』

「……せん、せい……に、した……が…う…?」

『そう。“先生の言うことをちゃんと聞く”の。わかった?』

「………、わか、った………」

「……………」

そして勾玉が雨音の目の前から離れ、雨音がその指示を聞くべくこちらへと向いた、その姿を。
真っ直ぐに紫暗の瞳で見据え、朔馬は口にした。

「…じゃあ今からアンタの“現状”把握する為に軽く手合わせするケド。俺がアンタに出す“指示”は一つだけだ。ちゃんと“聞け”よ?」

「………」

「————俺を“殺せ”」



「「!!??」」



瞬間、朔馬が言い放ったその一言、に。場の面々の表情が一瞬にして驚愕に変わり言葉を詰まらせた。

と、同時に。各々が声高に叫ぶ。

「なっ…ちょっと!何言ってるの朔馬先生!?そんなのダメに決まってるでしょ!何て指示出してるのよっっ!!」
「……、撤回して下さい。」

「“殺す”、だ。分かるか?単に“倒す”んじゃねぇ。俺が“死ぬ”ように攻撃して来いって事。躊躇なんざ全部抜きでな」

「朔馬先生っ!!」

『………っ、————!!!』


姿が勾玉である彼女には、表情なんてものはないが。
それでも、とてつもなく焦っている様子が感じられるその雰囲気を全面に押し出しつつ、ばっと。雨音へと振り返る。

『っ……雨音?だめよ!聞いちゃだめ!あんなことっ……絶対聞いちゃだめ!』


「…………………」


——けれども。周りの声など、もう全く聞こえてはいない様子で。

雨音の湖色の瞳がスゥ…っと静かに暗みを帯びた。その視線は目の前の“群青色”ただ一点に染まっている。



————“ “先生の言うこと”を聞くの ”————



先程勾玉が言った、その一言。それを、忠実に守るべく。


『………っ……確信犯ね…!?あなた………!!』

「……アンタら下がってろよ?巻き添え食らわせねぇ保証はねぇから」


普段のぼんやりとした雰囲気は完全に消し去って。
波紋一つ浮かばぬ水面の様な、洗練された“無”。仄暗くも鋭く滲む、湖色の眼光。

全くの別人に成り代わったかの様な、そんな、雨音の姿を。視線から一切外す事なく。
ふとした次の間には一瞬にして自身へと向かって来るだろうその挙動全てに警戒を向けつつ、こちらも…一切の笑みを消した朔馬が真顔で声だけをそう他の生徒達に投げた。

『さっき“この子には非のいかない指示しかしない”って言った筈じゃない!信用した私がバカだったわよほんとなんて非常識なひとなの!』

「いかねぇだろソイツに非は。俺が死なねぇ限りはな。必要だっツった筈だ。…俺が把握してぇのは“氷山の一角”じゃねぇ。枷全部を根こそぎ取っ払ったコイツの“純粋な現状”なんだよ、変にセーブさせたって意味ねぇだろーが」


……そう。朔馬が見定めるべきなのは、綺麗事を抜きにした“純粋な雨音の状態”なのだ。

武術大会などでもあるまい。“指示”をどこまで明確に遂行するのか、授業だからとか鍛錬・修行だからとかそんな甘臭い要素は全くもって不要。

必要なのは一切の遠慮の無さ、非情なまでに徹した“容赦の無さ”。
…どんな“指示”を、一体何処まで、彼は無感情に再現するのか————

一体、彼はどこまで“傀儡的状態”なのか。それを見定めるのが、朔馬の仕事。
故郷の稼業が“暗殺”を生業とした“忍び”である彼は、その辺りの判断が他よりも長けていた。それ故の、この役目。


「……っ……私始まりの先生たち呼んでくる!」

「呼んでも意味ねぇぞ。その始まり連中にコレ頼まれたワケだからな俺」

「!?嘘でしょ!?」


そう、桜華と言葉を交わした、瞬間。


「————!」


雨音が激しく地を蹴った。






ーーーーー
この後どーすっかな……(笑)
ほんと雨音さん達めっちゃお借りしました!キャラ掴みきれてないからほんと勝手してます違ってたらごめんなさい……!!
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