徒然会話・小話(バンド☆パロ)

□なんだかんだいって、一緒に居る事の意味。
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ーーー ガタゴト。カタン、ごそごそ……

カチャン……


にゃん朔(………………、んー………?)


物音にふと眠りから目が覚めた。窓から差し込むお日様の光。あれ…?もう朝か……

寝室の壁の高い位置に備え付けられた小さなベッドの上で起き上がってふあぁ……とあくびをしながら伸びをした。吾輩は猫であるから人間がするような腕を伸ばす類ではなく四つん這いになってぐぐぐーーっと。所謂猫のポーズで。全身を伸ばす。

にゃん朔「………………」

未だ眠たい目をごしごしと擦った。ボーっとする頭。普段元気なにゃん朔もこういったところはやはりまだまだお子ちゃまである。ちょこん、とベッドのお布団の上に座って目をこしこしする様は何とも言えぬ可愛いものだ、という、第三者の目線はさて置いて。よいしょ…と階段梯子を伝いベッドから降りてきてガチャリと寝室のドアを開けた。

廊下に出て寝ぼけ眼で見るとリビングへ続く扉は開け放たれている。物音はその先のリビングから聞こえて来る様子だ、肩に黒いギターのケースを担いだままリビングを横切った朔馬の姿が見え取り敢えずといった様子でにゃん朔はぽてぽてと。若干ぶかぶかのパジャマの裾を引き摺りながらリビングへとやって来た。

にゃん朔「………おはよ、さくま……」

目をこしこしとさせつつそう声を掛けてきたにゃん朔へと。

朔馬「…何だ起きたの。出る前に声だけは掛けてこうと思ってたんだケド。手間省けたな」

そう、カウンターに置いていた車のキーを手に取りつつ朔馬が言葉を返した。見るからにまだぼーっとした幼い月夜色の瞳が朔馬を見やる。

にゃん朔「……どっか行くの?こんな朝っぱらから…」

朔馬「昨日言ったろ?今日は今からバンドのミーティング。…昼過ぎには戻るケド。飯適当に食っとけよ昨日の残りモン冷蔵庫の中にあるから。朝はパンでも焼け、目玉焼きとソーセージ焼いてそこ置いてる」

そんな朔馬の言葉に自身が立っているリビングの入り口、その脇にあるキッチンに目をやると台の上にラップのされた皿が一枚置かれているのが見えた。あれが多分そうだ。

にゃん朔「……わかったー。ありがと朔馬」

朔馬「じゃー行ってくる」

“遊び行くなら行くでいーケド戸締りはちゃんとしてけよ”
そう言い残してスタスタと廊下を歩きバタンと玄関扉から出て行った群青色の後ろ姿を見送って。

にゃん朔「………………」

シーンと静まり返った家。暫し朔馬が出て行った玄関へと視線を向けていたにゃん朔だったが、やがてくるりと身を翻して洗面所へと移動した。台の上に上がりぱちゃぱちゃと顔を洗う。

にゃん朔「……………ふー……」

そしててこてことリビングへと向かい真っ直ぐにカウンターへと歩み寄った。隅に置かれた食パンの袋。

にゃん朔「……っ、んしょ…」

カウンターチェアーによじ登りつつ片手でよいしょと引き摺り下ろす。そしてその足でてててて、とキッチンへと向かった。

にゃん朔「………えーと…台…」

キョロっと一つ見渡したキッチン。その奥に、立て掛けてあった折りたたみ式の台を見つけよいしょと移動させオーブントースターの前で開きその上に登った。

にゃん朔「………」

ガサゴソと袋からパンを一枚手に取る。背伸びをしトースターの中にパンを入れて扉を閉めジーっとスイッチであるタイマーを捻った。きっかり3分。

にゃん朔「よし…と……次は」

そして台から降りそのまま手前へと移動させて。キッチン台の上にパンの袋を置き代わりに置かれていた皿を手に取った。

にゃん朔「んしょ……」

そしてゆっくりと台から降りて。皿をひっくり返さぬよう慎重に片手で持ちながら再び台を移動させる。向かう先は勿論電子レンジだ。

にゃん朔「……500わっと…の、30秒くらいでいいかなぁ…あんま熱ぃと舌やけどするし…」

もれなく猫舌なにゃん朔には少し冷めたくらいが丁度いい。一連の慣れた手付き。甲斐甲斐しく世話を焼くタイプでは全くない朔馬との同居生活の中である程度自分の事は自分でするという事にはもう慣れっこなにゃん朔はオーブントースターは勿論電子レンジの使い方ももうお手の物といった様子で。慣れた手付きでオカズを温める。

にゃん朔「………………」

じーっと中の様子を眺めていたにゃん朔の視線の先でチーンという高い音が静かな部屋に響き渡り赤外線がふっと消えた。ガチャリとドアを開け中から皿を取り出す。…うん、丁度いい温度だ。

にゃん朔「……美味しそ…朔馬なんだかんだ言っていっつもちゃんとご飯は作ってくれるんだよな……簡単なモンばっかだけど」

そんな事を口にしつつ温めたオカズをカウンターへと運んで。トースターはまだ赤く熱し続けている、今の内に次は飲み物だ。冷蔵庫にはいつも牛乳パックが常備されているから。食器棚からカップを手に入れ床にコトンと置いた後台を移動させバタンと冷蔵庫の扉を開いた。

サイドポケットにはやはり、いつもの牛乳。朔馬も自分も、牛乳は割と濃厚なものを好むから。牛乳はいつもこれ、味のしっかりと付いた文字通り濃厚牛乳。

にゃん朔「んしょ……」

それをこぽこぽと零さない様に気を付けながら床へと置いたカップに注いだ。冷たいままでもいいのだけれど、やはりそこもまたお子ちゃまなにゃん朔である。棚から取ってきた砂糖を少しばかり入れ込んで、再び台を使って電子レンジへと舞い戻る。500W30秒のチーン。ほんのり温い砂糖牛乳の完成だ。

にゃん朔「……あ。パン焼けた」

そして同時に鳴り響いたオーブントースターの音。完成した砂糖牛乳をカウンターへと運んで再び台を使いトースターの前に立った。手にはお皿。

にゃん朔「……っ、んしょっと………あち」

恐る恐るゆっくりと。熱されたトースターの縁に手を触れない様にして気をつけながらズルリと焼けたパンを皿へと滑らせる。腕をある程度伸ばさないと届かないオーブントースターの位置。以前台からひっくり返りそうになった事もある、ここだけは慎重にやらないと。

にゃん朔「…よし、取れた。あとはバター…」

両手でパンの乗った皿をしっかりと持ちつつ慎重に台から降りる。そしてまた台を移動させキッチン台の上へと置いて台を移動、冷蔵庫からバターを取り出してまた台移動。キッチン台の上でガリガリとパンにバターを塗っていく。

にゃん朔「…………」

これにて準備は完成。バターを脇に抱え皿を片手にまたゆっくりと台から降りて。取り敢えずバターは床へと置きカウンターにパンを運ぶ。そしてすぐさま戻って台を移動、冷蔵庫にきちんとバターをしまい込んだ。

………一体何回台を移動させたのか。まだ小さなにゃん朔にはキッチンの備品全てがそのままでは手の届かない所にあるから。台は必需品。だからこそ折りたたみ式のものを選び常にキッチンの中に置いてあるわけなのだけれども………書き手も毎回 “台を移動して” と書くのがもううんざりとしてくる程に、台が無ければ何も出来ないにゃん朔。小さいのに良く頑張っているな、と、素直にその頑張りを褒めてやりたいところだ。
まぁにゃん朔的にはもう慣れっこな事なのだけれども。

にゃん朔「んしょっと………じゃ、いただきまーす」

自分で用意して並べた朝ご飯。並んだそれらに手を合わせて頂きますをしてから手に取った食パンをがぶりと口へと運んだ。馴染みのパン屋さんの食パン。ザクッといい音がしてバターに彩られた仄かなパンの味わいが口の中へと広がる。……うん、いつもながらやっぱり美味しいな、ここのパンは。

にゃん朔「………………」

じっとお皿を見つめ手にパンを掴んだままもきゅもきゅとパンを咀嚼する。…静かな家。
聞こえるのは自分が食事をしている音…と、時折、窓の外から聞こえてくるチュンチュンといった雀の鳴き声だけだ。そんな空間で。ちょこんとカウンターへと座って、にゃん朔はひとり…ただただ無言で朝の食事をする。

にゃん朔「………………」

お箸…は、使えるは使えるのだけれども。まだ何処かぎこちないから。自分にはまだ、フォークの方が使いやすい。そんなにゃん朔専用の持ち手がプラスチックで出来ている子供用フォーク。柄には別に拘りは無い。単に男の子チックだからと選んだ車の絵とロゴの描かれた何処にでもある普通のフォークだ。

それを手に、ブスリと突き刺した朔馬が焼いて用意してくれていた目玉焼き。ベロンと一枚丸ごと皿から浮かび上がったそれを、ガブリ。噛んで千切って口へと入れ込んだ。白身しか口には入らなかったけれど絶妙な塩加減の効いた味わいが何とも言えず美味しい。いつもの味だ。朔馬の目玉焼き。

にゃん朔「………………」

無表情でもきゅもきゅと咀嚼し続ける。慣れた味、慣れた朝ご飯。この静か過ぎる空間でたったひとりきりの食事をするという事も珍しくはないから、にゃん朔にはもはや慣れっこで。“寂しい” なんて思う気持ちももはや彼には無い。無いが……

にゃん朔「………………、……」

無意識…なのだろうけれども。無表情に食事をするその顔。それに何処か、曇りの様なものが滲んでいる事に気付く者は今この場所には誰も居なかった。だってにゃん朔は今ひとりきりなのだから。自分では気付かない。気付く事もない、本当に無意識の翳り。


にゃん朔「ふぅ……と。ごちそーさまー」

そうしてひとりきりの食事を終えて。手を合わせた先には綺麗に全て平らげられた皿。空き皿。カチャカチャとそれらを重ね、ゆっくりとカウンターチェアーから降りて流しのシンクへと運んで行く。自分で食べたものは自分の手で片付けるというこれもある意味立派な教育?の成果だ。

にゃん朔「んしょっと……しばらく水につけとこ。洗うの後ででいーや、朔馬帰るまでに洗えば問題ないだろ」

そんなこんなで後で使う予定である台はそのまま、ぴょんっと飛び降りてリビングへと戻り何を思うわけでもなくその静かな空間へと視線を泳がせた。




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