徒然会話・小話(バンド☆パロ)

□Happy Birthday 2018.11.29☆
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『なぁ姫夢!28日夕方からちょっと空けといてくれよ!飯食おうぜ飯!」


そんなLINEが届いたのは二週間程前の事だったろうか、今日はその当日。


姫夢「…………?」


約束通り予定を空けておいた今日、“一緒にご飯を食べよう” と誘って来たわりに。気がつくと待ち合わせ場所から恭に連れられてやって来たのは彼が住むマンション、彼の自宅だった。

姫夢「?恭様?ご飯食べに行くのではなかったのですか?お忘れ物か?」

恭「いんや?今日は俺ん家で飯食おうぜ!」

姫夢「………お家で……?」

そんなやり取りを交わしつつガチャリと部屋のドアの鍵を開けた恭。にかっ、と、彼独特の笑顔が姫夢を迎え入れる。

恭「入れよ!」

姫夢「………お邪魔してもよろしいのですか?」

恭「遠慮すんなって!」

姫夢「………」

キィ、と大きく開かれた玄関の扉。姫夢を先に中へと通す為その扉を背で支えつつ恭が笑顔のままで姫夢を中へと促した。

姫夢「………それじゃあ、お言葉に甘えて……お邪魔しますのだ……」

恭「おう!」

ゆっくりと、遠慮がちに姫夢が玄関へと足を踏み入れた。時刻はもう5時半過ぎ。もうすぐ12月になろうかというこの季節辺りはもうすっかりと夜の闇に包まれている。明かりの灯されていない部屋の中はさながらもう真っ暗闇だ。

部屋の外の廊下の電気が照らす玄関内、薄らと見えるそこはきちんと綺麗に整理されている。お世辞にも広いとは言えないが靴などが散乱する事もなくすんなりと姫夢は中へ入る事が出来た。

恭「ちょっと待てな、今電気点けっから…」

バタン、と、扉が閉まった瞬間。視界を闇が覆う。
動けずにいる姫夢のすぐ隣を後ろから、壁にジャケットを擦る音を立てつつ恭が影としてスルリと間をぬった。
ふわりと香るのはいつも彼が心ばかし身につけている香水の香り。仄かに匂うその香りが、姫夢はとても好きだったりする。彼の香りだ。

恭「よっ…と。悪ぃな相変わらず玄関狭くてよ。靴その辺に適当に脱いでてくれていいからさ、早いとこ上がれ姫夢。外寒かったろ?暖房付けたままにしといたから中はあったけーぞ!」

姫夢「!お部屋…わざわざあっためておいてくれたのですか?」

恭「あったり前だろ。外寒ぃんだからさ」

姫夢「、そんな……電気代、勿体ないです…」

恭「気にすんな!」

姫夢「………ありがとうございますのだ、恭様」

“お邪魔します”、と、優しさの滲むその気遣いに姫夢は嬉しそうににっこりと素直に笑って。礼儀正しい仕草で靴を脱ぎそれらをきちんと揃え、前を行く恭の後へと続いた。

細く短い廊下の先、リビングへの入り口となるすりガラスの入ったドアをガチャリと恭が押し開く。“はぁ〜〜ぬっく” と、言うなり恭はスタスタと電気を点け上着を脱ぎつつ動きながら姫夢の方へと振り返った。

恭「その辺適当に座ってろ」

姫夢「!」

明るくなった部屋の中を、見ると。八帖程のリビングの壁から少しだけ間を開けた位置に置かれたダークブラウンのローソファー、その前にあるテーブル、の、上に。既に準備して並べられてある二人分のお箸と、コップ。まるで何かを待つかの様に。

視線で追った先の彼はカチャカチャとキッチンで何やら作業をし始めていた。ボォ…とコンロから出る青い火が上に乗る鍋を温めているところが姫夢の視界へと映り込む。呆然と…

姫夢「………、恭様…?」

と、姫夢が声を掛けると。

恭「……ん?何ボーッと突っ立ってんだよ、早ぇとこそこ座れ。………や、やっぱ先に手洗って来い。もう準備は済ませてあるからさ、後あっため直すだけだし!」

そう言ってにっかりと恭は笑った。

姫夢「……………それは何を…して、おられるのか…?」

恭「は?何、って……見りゃ分かんだろ?飯の支度!一緒に飯食おうっつってLINE送ったじゃんか俺」

姫夢「…来てました……」

恭「?なに?どした?何そんなボーッと面食らった様な顔して…」

姫夢「………、まさか…それ……恭様の。手料理……ですのだ?何か買って来てる、とかではなくて?」

恭「そ!俺が作った!」

姫夢「………!!」

まさか……と。姫夢の目が大きく大きく見開かれ思考が呆然と白く染まる。

…てっきり、外食として何処かお店に入るものだとばかり思っていた。待ち合わせの場所に現れた彼は “んじゃ行くか!” と、いつもながらの笑顔で自分を案内し始めてくれて。
けれども辿り着いた先は、まさかの彼の家。店などではなく。

ならば何か、買って来ているのかな?と。もしくはデリバリーとかかな?と思った。材料の買い出し等は無かったからお鍋とかではないだろう、ならばもう選択肢としてデリバリーかもしくはテイクアウトの類しか考えが付かなかったから。それがまさか。

……手料理、を。用意してくれているなど、思わなかった。部屋に立ち込め始める手料理独特の食欲をそそる美味しそうな匂い。慣れた手つきで、味見用の小皿にお玉で救った煮汁なのだろうそれを取り味の最終確認をしている恭の姿が姫夢の視界へと映った。“うっし!” と、チェックした味に調理の完成を下し恭がコンロの火をカチリと止める。

恭「出来たぞ姫夢!早ぇとこ手洗って来いよ!すぐ並べっから!」

姫夢「…………」

恭「…?姫夢?」

姫夢「!は、はいですのだっ!」

きょとんとして掛けられた声にハッと我に返った姫夢が慌ててぱたぱたと洗面台の方へと手を洗いに駆け出して行った。
その姿を愉快げ微笑ましそうに眺めつつちゃきちゃきと恭は出来上がった料理を皿へと盛り付けテーブルの上へと並べていく。


姫夢「…………、……!」


手を洗い戻って来た姫夢の目に、次々と並べられていく手料理の姿が飛び込んで来た。美味しそうな湯気、その香り。

正に “家庭の晩御飯” と呼べるその見栄え。しっかり一汁三菜。並べられていたお箸とコップが待っていたのはこれだったのだ、と、酷く納得がいく程に絵に描いたような家庭の暖かい晩御飯がそこには並んでいる。まごう事ない “手料理”。

恭「煮物ばっかで悪ぃな!俺炒め物とかより煮物の方が得意なんだよ。味はそこそこイケてると思うぜー、まぁ浮里姐さんとか若草姐さんに比べたら、全然まだまだ。青っちいけどさ」

“ほれ、座れ座れ。あったかいうちに食おうぜー”
そう言いながら未だ上着すらも脱いではいなかった姫夢にコートを脱ぐよう促し受け取ったそれをハンガーへと掛け壁にぶら下げる。

どこかまだ呆然といった様子で姫夢がけれども目を僅かに輝かせながらソファではなく床の方へ座ろうとしたのを、恭が “バッカそこじゃねぇ、おめぇはあっちだ!” と、当然の様にソファ側へと移動させた。

姫夢「……、これは………一体何事ですのだ?恭様……なんで……」

恭「?何が?」

姫夢「何で急に…手料理を……」

恭「だってお前、明日誕生日だろ?その祝いだよ。前祝いってやつ?」

姫夢「え?」

その言葉に驚き目を見開いた姫夢の視線の先で
“後は酒だ酒ー!あ、お前は勿論ジュースな。お前に呑ませたりしたら後でお前の母ちゃんに “未成年者相手に何してくれやがりますか” つって俺がボッコボッコにされんだからさぁ。怖ぇ怖ぇ”
と、キッチンで自身が飲む酒と姫夢に飲ませるジュースを取り出している恭。そして運んで来たその姿を、金春色の瞳がじっと逸らす事なく眺め続ける。

姫夢「……お誕生日…の、前祝い……ですか?」

恭「そうそう。お前あれだろ?明日の誕生日は家で家族皆で一緒に祝うんじゃん?救世主も誕生日一緒だ、って桜華から聞いてるしさ。だから俺は今日!誰よりも先に!前日に前祝いしてやろう、ってな!」

にかっ!と。弾ける様な笑顔で恭がそう告げた。

姫夢「……ーーーー」

姫夢の、姫夢たち一家の家族の仲の良さ、暖かさを、恭はこれでもかという程に知っている。
だからそれを邪魔するつもりは毛頭無い。けれどもだからと言って、自分はじゃあ何もしないのか?と言えばそんな筈は無く。大事な大事な彼女の一年に一度の大切な誕生日なのだ、“必ず当日に”、などといった強い拘りは無くとも、“何かしてやりたい”、と。そう思った。だから企画したこの “前日祝い”。

姫夢「………、姫夢の…お誕生日…の、前…お祝い……恭様の手料理で……」

恭「つってもそんな凝ったもん作ったりはしてねぇけどな。お前大根好きだろ?だからーーー」

ーーー メインは、大根と鶏肉の煮付け。サブの小鉢には切り干し大根の煮物…に、地味に恭が一番得意としている里芋の煮っころがし。

後は見るからにあったかそうな…大根がしっかりと使われたヘルシーたっぷりな豚汁。そしてほかほかの…真っ白な白ご飯。

本当に。何処の家庭でも出て来ておかしくない温かな手料理、“晩御飯” だ。変に飾り気の無い素朴なその見た目が、逆に彼を象徴しているかの様に思える。飾らない恭の、彼の色が滲み出ている純朴な優しさ。

姫夢「………食べて……いいですのだ?これ……」

恭「あったりまえだろ?お前に作ったんだからさ!冷めねぇうちに食っちまおうぜ、ほら!“いっただっきまーす”♪」

姫夢「…………頂きます、のだ…」

そしてまだ何処か呆然とした様子で静かに箸を付けた姫夢。ゆっくりと…小さく取ったその煮物をゆっくりと口へと運んでいく。そして……

姫夢「…ーーーー!!」

パアァァ!と。一気に花が咲き乱れるかのように目を輝かせる。

姫夢「っーー美味しいです!!」

恭「……そっか!」

そんな姫夢の一連の動きをじっと見つめていた恭が、姫夢の発したその一言にはにかんだ笑みを浮かべそう答えた。反応がとても嬉しい、といった心境が、まんま描かれた様なその笑顔。

姫夢「恭様お料理がとてもお上手!ですのだ!」

恭「そりゃ良かったよ!おめぇの為に作ったんだかんな今日な!ほら、いっぱい食え!おかわり欲しいならまだまだ鍋に残ってっから!遠慮すんな!」

姫夢「はいですのだ!!」

その瞳をキラキラと輝かせて。“自分の為に” 作ってくれたのだという手料理をパクパクパクパクと次々に頬張っていく姫夢。そんな姫夢を、とてもとても “可愛い” と感じられるそんな幸せいっぱいの心境に。
恭も心の底から嬉しそうににっかりと笑った。




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