遊びの部屋

□どこかの世界のそんなお話。
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……痛い。痛い。痛い。


なんで痛い事ばっかりするの?

嫌だ、って。ごめんなさい、って。何回も言ってるのに

こんなにも。こんなにも。こんなにも。


喉が枯れるくらい。譫言のように繰り返して、けれど。痛いのは和らぐどころか逆に酷くなる一方で。

……“うるさい” って。“喋るな” って、また殴られた。



ーーー 後はもう黙って耐えるだけの日々だった。



















膝を抱えて身を小さくして蹲っていると。ふと、頭上から声が落ちた。

「………何してんの?」

若草色の彼女「!」

弾かれた様に見上げた先。深い群青色の髪、淡く綺麗な紫の瞳、それが彩る綺麗な顔……



ーーー “男の人” だ。



若草色の彼女「…………、っ………!」

「……?何?その顔。そんなビビる必要ねぇだろ?声掛けただけじゃん。邪魔だから、さ。そこ。どいてくんない?」

若草色の彼女「………ぁ………ぁ…………!」

言葉にならぬ声を押し込んで。若草色の彼女は唾を飲み込んだ。

「…………?」

そんな若草色の彼女の反応に怪訝な表情を浮かべて。群青色の青年は訝しげに眉を顰める。

「…や、だから。さっさとどいてって。車出せねぇんだよそこ居られたら。エンジン掛けらんねぇだろ?」

“この車俺の。出してぇんだよ、分かる?アンタがそこ居たら俺車出せねぇんだって。危ねぇから”

必要以上に驚愕した様子で固まってしまっている目の前の若草色に半ば呆れた様子で。群青色はそう口にした。

……本当に。早くどいてくれないものか。普通なら最初の言葉で気付くだろ?車を出したいから。どいて欲しい、って。何でコイツこんな固まってんの?俺の言った事に反応すらしねぇし…何なのコイツ。変な奴…。そんな心境に溜息混じりにじっと目の前の若草色を見下ろしている群青色に、若草色は尚も見開いた目を茫然と向けていた。

若草色の彼女「………………」

隠れるにはうってつけの所だと思った。暗いし人気は少ないし。ここで息を潜めていれば少なくとも今は安全かな?なんて、思ったりしたのだけれど……

甘かった。


若草色の彼女「……………、っ……」


心臓がバクバクと早鐘の様に鳴り響き混乱と動揺で頭すら上手く回らない。どうすれば……


「………何か言えよ。つーかどいて?マジで。邪魔なんだケド」


どうすればいい?どうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば。

ーーー どうすれば私はこのひとに…痛い事をされずに済むのかーー?


若草色の彼女「……………、ご………なさ………」

「…隠れんぼでもしてんのか知らねぇケド。邪魔。こんなとこで遊んでんなよ危ねぇだろーが。たまたま俺が気配に気付いたから良かったケ……」

若草色の彼女「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーー」

「!」

若草色の彼女「ごめんなさ……っ」

恐い。恐くて足が竦む。声も出せなければ体は動かない。どうする事も出来ずに。

思考を完全に手放した頭で、若草色の彼女は見開いた目をその綺麗な顔に向けている事しか出来なかった。

「…………」

一瞬面食らった様子で驚きを露わにした群青色が、やがて静かな視線を若草色へと向ける。

「………何もそんな必死こいて謝る必要性はねぇだろ。こっちがビビんだケド。つーか謝罪はもーイーからさ、さっさとどいてくれよ。アンタがそこどいてくれるだけで俺はイイ……」

若草色の彼女「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「………や、だから……」

若草色の彼女「ごめんなさい!!」

「……………何なのアンタ……」

もはやこちらがどうしたらいいのか分からない、そんな面持ちで、群青色ははぁ……と深く溜息を零した。

ーーーすると


『ーーー居たか!?』

『や、こっちにゃ居ねぇ!どこ行きやがったんだあの女!』

『間違いなくここら辺に居るよな!?まだそんな遠くには逃げきれてねぇ筈だし!』

『探せ!!』


ーーー 何処からともなく、そんな柄の悪そうな男達の声が辺りに響いた。

若草色の彼女「っっ!!」

その瞬間、若草色の彼女の体がびくぅ!と反応する。

「………………」

明らかに顔色を変えた若草色の彼女。酷く怯えたその様子を、群青色は静かにその紫暗の瞳へと映した。

「…………アンタ……」

そしてその声が近くなる。

『こっちは探したか!?』

『いやまだだ!』

『駐車場か……あり得るな!おい!手分けして探すぞ車の後ろとか下とかまできっちり見ろよお前ら!』

『あの女……見つけたらただじゃおかねぇ……!』


……もうダメだ。そう思った。

すぐに自分はあのひとたちに見つかって。……また、あの地獄の様な日々が始まるのだ。泣いても謝っても、何をしてもやめては貰えない。

繰り返し与えられる痛み、苦しみ。絶え間ない苦痛がまた、訪れるのだと。そう直感した。

若草色の彼女「……………………」

「…………………」






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