遊びの部屋

□朔若名作劇場ーシンデレラー
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ーーー 昔昔、とある場所にとある国がありました。この国の国王様は今絶賛憂鬱で

玄斎「………………、はぁ………」

玉座に座り込み肘置きに腕を乗せた状態で頬杖をつき深いふかぁい溜息を零しています。

右京「……如何致しました」

それを見た側近が尋ねました。

玄斎「………あやつの事じゃ。今朝もあっち行きこっち行きしフラフラと遊びおって………まったく。いつになったら嫁を娶るのかのぉ、儂はこの国の将来が心配でならぬ」

右京「王子……ですか」

玄斎「他に誰がおるんじゃ」

右京「ならばもういっそ舞踏会でも開きますか?」

玄斎「…………ん?」







ーーーーー

桜華「……若草様ー?若草様ー。どこー?」


若草「〜〜〜♪♪♪」

……所変わって。国の一角にある深い森、その森の側に立派なお屋敷があります。

自分を呼ぶその声が聞こえていないのか。見すぼらしいボロボロの服、炭で汚れたそのお顔。

“若デレラ”ーーー と、人は彼女をそう呼びます。いつもいつも、煤だらけのその姿。見た目 “だけ” は少女の、若草色した髪を持つ “炭被り姫”。
趣味はお掃除と料理。つまるところ家事。今日も、今朝からずっとずーーっとお屋敷の中をあちこち行ったり来たり。今は大広間の床を拭いています、鼻歌なんて唄いながら。

桜華「………あ!いた!もーちっともじっとしてない…。若草様?」

若草「ほ?」

そこで漸く、若デレラは床から顔を上げます。

若草「桜ちゃんじゃないですかー♪どうしました?オヤツのお時間にはまだありますよね?お腹空きました?」

桜華「若草様のオヤツものすごーーーく美味しいから大好きだよー☆勿論ご飯もなんだけどね?もー毎日私それが楽しみで楽しみで♪」

若草「それは良かったですー☆」

桜華「………じゃなくってね?それは本当なんだけどそうじゃなくって。探したよーほんと常にじっとしないんだからもぉ…」

若草「?何かご用事です?」

桜華「何してるのそれ??」

若草「?なにって…見ての通りお掃除ですよお床拭いてましたー♪」

桜華「…昨日もしてたよねそこ?」

若草「ですかねぇ♪」

桜華「…………………はぁ……」

と、左右で違う色をした瞳を持つ少女はその瞳を閉じて深いふかぁい溜息を零します。彼女の名は桜華、この屋敷の住人。

若デレラとは血の繋がりはないけれど同じ家に住むご家族さんです。趣味はオシャレ。今日もきっちり、器用に結い上げた髪と良く似合う可愛らしい服を着ています。

桜華「そんなにお掃除ばっかしなくていいっていつも言ってるじゃないもぉ。置いといてくれたら私も、夢ちゃんだってやるよぉ。いつもやろうとしたら若草様が先にやっちゃってるからやる事ないけど私たち。少しはゆっくりして?」

若草「大好きなお掃除出来てる時点でゆっくりしてますからいいんですよ私はー♪それより何かご用事です?」

桜華「夢ちゃんたちと森に木苺取りに行くから探してたの。若草様も行かないかなー?って」

若草「!木苺ですか!」

桜華「行く?♪」

若草「行きますっ♪」

そんなこんなで。花のような笑顔をパァっと浮かべた若デレラは後で続きをやるべく掃除の真っ最中だった道具などはそのままに。桜華と共に玄関ホールへと向かいます。

夢「…………あ。来ましたかようやく」

そこには既に待機していたもう一人の少女。名は夢。二人と同じこの屋敷の住人且つご家族さんで、漆黒の長い髪に吸い込まれる様な綺麗な顔立ちをしたとてもとても美人さん。こちらへとやって来た二人を無表情に見つめます。
趣味は山兎の観察と可愛い可愛い愛娘のふたりを愛でること。その対象である少女たちーー奏と姫夢は、今日も今日とて夢に愛でられていたのでしょう。ふりっふりのこの上なく可愛らしいお揃いのワンピースを着て、にこぉ☆と。木苺を摘む為の篭を手に夢の両隣で笑っています。何ともまぁ可愛らしい姉妹だこと。

桜華「ごめんね夢ちゃん奏ちゃん姫夢ちゃん、おまたせー!若草様ぜんっぜん見つからなくて」

夢「今日はどこをお掃除してたんですか煙突ですか?またお顔汚して…」

若草「あ。煙突はさっき終わりましたー☆」

姫夢「若草姉様お顔、お拭きいたしますのだゴシゴシ♪」

奏「お服に埃ついてますよパッパッパ♪」

若草「ほ?ありがとうございますー☆」

夢「可愛すぎですかこの子たち。気配り上手優しい加えて見ましたか今のお顔どれだけ笑顔が可愛いんですか」

桜華「夢ちゃん頭の上にお花咲かせながらもやっぱり無表情だよね(笑)」

そんないつも通りの会話を交わすこの女の子だらけのご家族さんは皆とてもとても仲が良く。お屋敷は毎日彼女たちの笑い声に溢れています。

白髪の彼女「…………実に微笑ましい」

そんな彼女たちの母親役である白い髪に水面の様な青い目をした女性ーーー白髪の彼女は、お屋敷の部屋の中から窓の外を見つめ。
キャッキャと笑い合いながら木苺を摘みに森へと歩いて行く娘たちの姿を見てにっこりとそう呟きました。




ーーー そして、そんな次の日のこと。
お屋敷の前に一騎の騎馬隊が止まります。どうやらお客様の様で…“御免!”と、大きく声がかけられます。

煌びやかな見目からそれがお城からの使者である事が分かった白髪の彼女が、このお屋敷の一応は責任者である立場として玄関扉を開けお客様のご対応をしました。話は直ぐに終わったらしく、一枚の封筒を手に中へと戻って来た白髪の彼女の元へと娘たちがやって来ます。

夢「…お城の方がこんな町から離れた場所にまで一体何の用事だったんですか?澄母さん。それは?」

白髪の彼女「招待状らしい。今宵、城で舞踏会が開かれるそうだ」

桜華「え!?舞踏会!?」

それを聞き桜華が目を輝かせます。

桜華「お城の舞踏会に行けるの!?私たちが!?」

白髪の彼女「らしいな。何でも国中の娘に配っているそうだ」

奏「国中の娘…ならかなちゃ…私たちも行けるんですか?」

姫夢「ひめも?」

白髪の彼女「“娘” なのだから当然であろう」

奏・姫夢「………………!!(パアァ)」

夢「………こうしちゃいられませんね。早速(この子たちを)着飾らないと。とっておきのお衣装どこになおしましたか…!」

桜華「わぁい!お城の舞踏会一回行ってみたかったんだぁ!☆楽しみー!♪何着てこー!♪」

若草「良かったですねぇ皆さん♪ささ!早くお準備に取り掛かりましょ!?私も手伝いますー♪」

白髪の彼女「………娘は行かぬのか?」

若草「ほ?なぜ??」

桜華「なぜ、って……国中の娘、でしょ?招待状の送り先。若草様も“娘”じゃない」

若草「私“娘”さんだなんてお歳じゃないですよー(笑)」

夢「見た目はご立派に“娘”さんなんですけどね」

白髪の彼女「一緒に行けば良いではないか。我も付き添いとして同行するのだからそなたひとりきりになってしまうぞ。いつもいつもそんな薄汚れた格好ばかりしておらずにたまにはお洒落でも…」

若草「私にお洒落さんなお服が似合うとお思いですかー?おばーちゃん。着られるお服が可哀想さんですよ、ないない」

桜華「まぁたそんな事ばっかり言う……絶対に似合うのに……」

若草「第一そもそも!そんな煌びやかな場所に!私なんかが!行ったら!楽しんでる皆さんのお目汚しもいいところですよご迷惑千万です!(きりっ)せっかくの舞踏会が台無しになっちゃいますって」

ないですないですあり得ないですよあっはっはー☆と。何の悲観さも無い笑顔でそう笑った若デレラに家族皆がハァ……と溜息をつきました…が。何を隠そう彼女はとてもとても頑固で意固地なのです。そう言い出したらもうテコでも動きません。

その事を重々理解しているご家族の女の子たちは、それ以上の無理強いはせず。“ならばお手伝いお願いします” と、素直に若デレラに支度の手お伝いだけをお願いしました。

若草「まっかせてくださーい!☆髪結いやお化粧なんかは私とてもじゃないですが出来ませんが。それ以外の雑用や着付けの手伝いなら何なりとお申し付けください!ですよー♪」

そうして一家はバタバタと夜の舞踏会に向けて準備を進めて。あっという間に夜がやって来ました。見目麗しく、そして、可憐に着飾った五人に “………、ほおぉぉ☆がんっぷくです!☆” と若デレラはそれだけでもう満足と言わんばかりにお目目を輝かせます。

白髪の彼女「では行ってくるぞ、娘。留守の事は任せた」

若草「がってん承知!です!☆」

桜華「ごめんね若草様ー…帰ったらちゃーんと、いっぱいお土産話するからね?」

夢「怪しいひとが来ても絶対に扉開けちゃダメですよ。これ見よがしな居留守使って追い返してやればいいですから」

若草「子供じゃないんだから大丈夫ですよゆーちゃん(笑)皆さん!楽しんで来てくださいねー!☆」

奏「行ってきます、若草姉様☆」

姫夢「行ってきますのだ☆」

若草「はーい☆」

そうして城からの迎えである馬車へと乗り込んで、若デレラを除く一家はお城へと向けて森を後にしました。普段乗る事の無い煌びやかな馬車に、終始桜華はキャアキャアとテンションあげっあげだったご様子で…夢から “うるさいですよ花さん、もう少しお淑やかにしてください”、と喝を飛ばされたとかなんとか。


若草「…………行っちゃいましたねぇ……皆さんが笑顔で戻って来るの、待ちますか」

ひとりぼっちになり、ぽつーーんと。お見送りをした玄関で若デレラはひとり佇みます。

若草「……………」

いつも賑やかなお家。ひとりきりになる事なんて滅多にありません。このお家は、ひとりだとこんなに静かなものだったんですね。。

若草「…………さぁて。何しますかー」

気を取り直して若デレラはうーんと伸びをしました。夕食は今日は不要、ひとりだけの食事を作る気にはならず若デレラはやる事を探します。

……掃除?いや…今日はもう全部やりましたし……寝室の手入れ?は、さっき済ませました……うーんどうしよ……

そうして暫し悩んでいた若デレラですが……

若草「………!そうだ!☆」

何かを思い付いたらしくルンルンと笑顔へと戻り玄関先からぐるりとお屋敷を回ります。

向かった先は、お屋敷の裏庭。ここは若デレラの聖域です、若デレラ自身が丹精込めて慈しんで育てた花達が優雅に咲き誇っています。中央にある薔薇で出来たオブジェは何気ご自慢の逸品。月明かりを浴びてキラキラと輝く花達に心からの笑顔を浮かべ、若デレラは語りかけます。

若草「こんばんわーなんですよ、皆さん♪今日はいいお月様の夜ですねぇ♪お風、気持ちいいー♪」

サワサワと吹く風に揺れた草花たちが語りかける様に若デレラに何かを訴えています。何を隠そう若デレラは植物達の声を聞く不思議な力を持っていて。傍目には若デレラがひとり花達に語りかけている様に見えますが、実際はきちんと。草花達と会話を為しているのです。

若草「〜〜〜♪♪」

暫しの間、そんな草花たちとの会話に心弾ませていた若デレラが

若草「…………、ほおぉ……」

ふと、夜空の月を見上げました。空に光るまんまるな月。今日は見事な満月です。月の光に明らむ空は淡い紫の色に染まっていて。見事なその景色にほぉ…と若デレラの口から感嘆の声が上がりました。

若草「………綺麗ですねぇお空……何ていうんでしょ、あのお色……“月夜色” とでも呼びましょうか……とっても綺麗ですー…♪」

ウットリと空を見上げて。若デレラは綺麗なものが大好きです。それは花や、硝子細工や、自然といった目に見える物質もそうなのですが……それだけではなくて。“見えない部分” の綺麗さ、それも、若デレラが心寄せるもののひとつです。だから家族の女の子たちの事も若デレラはとってもとっても大好きです。だって彼女たちは皆、“心が綺麗” だから。安心します、ほっこりするのです。こんな綺麗なものに囲まれて自分はなんて幸せなんだろうーーーだなんて。そんな事を思ってしまいます、この月夜。“月夜色”。眺めていると不思議と心が安らぐ、そんな色ーーー

若草「………………、ほ?」

すると、そんな時。何処からともなく声が聞こえて来ました。





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