学パロ大罪

□迦蛇と蛇姫
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迦蛇「…………。…………んー……」


コロコロコロコロと。持ち手に指を添え口に加えたチュッパチャプスを舌の上で転がしながら迦蛇は視線を少し傾けた顔ごと横へと向けた。

天気の良い昼下がりとは言え今日は平日。遊具も何も無いただの公園の並木道に設けられたベンチに腰掛けているのは自分だけだ。一見平和な空気の至って日常的音達が静かに耳へと届く。

……が。


迦蛇「………………」


………確かに、迦蛇は感じていた。普通じゃない気配、普通じゃない感覚。

不穏な空気がこの世界全体に充満している。………否。何か場違いな程に強大な気配。それが、先程から自身の肌を掠める。

この感覚はほぼ…間違いないのだろう。この世にこの気配を醸し出せる者など、他に無い。

“始まりの鬼”。


迦蛇「…………。これ、発信源は “あの” 学園…だよねぇ?……んー………」

「…………かーだ♡」

迦蛇「!」

と、ふいに後ろから聞こえてきた声に迦蛇は小さく目を見開いた。
艶かしい、けれども何処か無邪気さを含む気品のあるおっとりとした高い声色。

この声が聞こえてくるのはいつだって唐突だ。

迦蛇「……戻って来てたんだ?姫様。おかえりなさーい」

蛇姫「うふふ、ただいま♡」

にっこりと笑って “姫様” と呼ばれたその女性は差している日傘の影を自身を見上げている迦蛇の顔へと落とした。

ーーー “蛇姫(へびひめ)”。迦蛇が遣える白蛇一族の長にして “八岐大大蛇(やつまたのおおおろち)” という異名を持つ神属の中でも “大神属” と呼ばれる太古からその存在を維持し続けているうちのひとりだ。
固有名詞としての名は “蛇姫(だき)” と言うのだけれども。皆、口を揃えて彼女の事を “蛇姫(へびひめ)” と呼んでいた。世に生きる “蛇” 達の頂点に立つ存在、その意。

迦蛇を含む白蛇一族達の者も皆、彼女に対し敬意を表して “姫様” と呼んでいる。にこりと優しげに微笑う彼女の背後には…確かに。底知れぬ程の秘めたる “力” の気配、それが見え隠れしていた。

蛇姫「何だかとっても。無性に迦蛇に会いたくなって舞い戻って来たの。可愛い可愛い私の迦蛇。最近はどぉ?悪さしてなぁい?してたらまた “お仕置き” しなくちゃいけないんだけど…」

迦蛇「し、してないよ?全然。最近はめっきり」

蛇姫「そう。なら良かった♡相変わらず可愛いわぁ私の迦蛇は♡」

そう言って再びにーっこりと妖艶にそして華やかに笑った目の前の主に迦蛇はあはははーっと繕った笑いを浮かべる。

……うん。嘘はついてない。最近は “悪さ” なんてしてないもん……いつもながら “男” 達を相手に見境のない “遊び” は繰り返しているけれども。これはある意味白蛇一族の性。一族の者達ならば皆そこそこに行っている事。

彼女達白蛇一族は皆正真正銘の “女系” 一族である。から。“跡目” を残す為に雄の子種は必要不可欠、必須。言うなれば “雌の性”。

“温もり” を求めて夜な夜な男の肌を求めてしまう。それは正に…“本能” の領域。決して抗えない身体に刻まれた “動物” としての欲求、本能。素体が “蛇” なだけあってその本能には所謂人間や妖達が持つような一般的モラルなどは存在しない。それこそ貪欲なまでにその本能には忠実だ。

しかしながら言って彼女達も、その奔放さ故他の神属達には疎遠されている、けれども。毛色は違えど、正真正銘 “神属” である。から。雄の子種全てが文字通り子種へと結び付く訳ではない。その大半は “力”ーーー 即ち彼女達にとっての “神力” と成り変換され、彼女達により強固な力を授けてくれる。正に “精力”。

故に。…“遊び” と称してしまうのは些か忍びないくらいに彼女達は皆男の肌を求め貪ってしまう、そういう生き者なのだ。その辺りはこの蛇姫とて何ら変わりない。
まぁ彼女はその有する強大な “力” の影響かそこまでに欲求が激しくはないのだけれども。彼女が “相手” として来たのは殆どがその時代時代に “王” と呼ばれる程に権力の高い者達。その全盛期にまで過去を遡れば時の権力者達の陰には必ず彼女の存在が居たと言われている程だ。しかしながらここ最近(と言っても人間社会の時間に直せば軽く幾つかの時代を遡る程だが)は彼女も歳を重ね落ち着いたらしく、男漁りよりももっぱら “バカンス” をする事に精を出している様子…らしい。

今回彼女がバカンスへと洒落込んでいたのは絶景のマリンブルーで有名な南国の島……だったかな……。随分と久方振りに、彼女はこの地へと戻って来ていた。


迦蛇「…………。ところで姫様……」

蛇姫「ん?なぁに?」

そんなバカンスから戻って来たばかりの清々しい空気と瞳で太陽光を遮る日傘の内から微笑みを向けてきた蛇姫を、白蛇一族特有の真っ赤な瞳でじっと迦蛇が見つめた。その赤い目は日傘の影になっている今でも何処かくっきりと浮かんで見える。

迦蛇「姫様が今回戻って来た理由。別にアタシの顔が見たかったからだけって訳じゃないっしょ?何か “感じ取った” から戻って来たんしょ?それこそ “ついさっき”、さ。」

蛇姫「…………流石は私の迦蛇。だからこそ私はあなたの事がお気に入りなの。本当に…可愛いわ……」

そう言って蛇姫はとてもとても満足そうににっこりと深く、深く微笑んだ。
その微笑みの裏に、確かな “大神属” としての神格を宿して。

先程からもう大気全体に混じってひしひしと感じる “始まりの鬼” 達の気、言い知れぬ圧。それと、蛇姫の纏う空気があい交わってこの先確実に何か “世界” をもを揺るがす “大きな事象” が起こるであろう事。それを暗に、示していた。

蛇姫「これはひょっとしたら………ふふふ。…愉しくなりそうな予感だわぁ……」

迦蛇「一体何が起ころうとしてるの?姫様。姫様が戻って来るくらいなんだからちょっとどころの騒ぎじゃないっしょ?これ。一体 “始まりの鬼” 達は何を……」

蛇姫「迦蛇は生まれてから何年が経ったかしら?」

迦蛇「…………。え……」

圧力に支配された青空を仰ぎ見ながら蛇姫はにこやかに微笑った。迦蛇の顔にやや怪訝そうな色が刻まれる。

が。彼女が唐突に話の流れとは一切関係の無い質問を返してくる事はもはや迦蛇にも慣れっこらしく。意味がある時もあれば無い時もある。そこを確かめるのはいつの時も決まって労力の無駄である。から。慣れた様子で迦蛇は至って普通にその質問の答えを口にした。

迦蛇「えー……。何年…かなぁ……。あんま気にした事ないからすぐには分かんないよ。こういう服着始めたのはここつい最近の事だったと思うけど」

蛇姫「好きよね迦蛇そういった感じの服。似合ってる。可愛いわ」

迦蛇「へへっ、ありがと姫様ー☆」

にこぉと笑った迦蛇の着ている服は、所謂 “パンク・ファッション” と呼ばれる服装に属されるもの。らしい。そこまでこってこての部類ではないにしろそれなりに個性溢れる着こなしをしている。まぁ彼女はあまりジャラジャラとアクセサリーを身に付けるタイプではないためシンプルと言えばシンプルな服装なのだけれども。


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