【 空飛ぶライオン 】

□【プロローグ】
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ある所に、一頭の立派なライオンがおりました。

太陽のように輝く、黄金のたてがみをしたそのライオンは、誰よりも強い“王様”でした。


だけど、そんな強いライオンにも、どうしても出来ないことがありました。

ソレは、ライオンがずっと夢見ていたことでもありました。

そのライオンは、ずっと「空を飛んでみたい」と思っていたのです。


しかし、ライオンには、空を飛ぶ為の翼がありませんでしたから、当然、空を飛ぶことが出来ずにいました。

その事を、ライオンはとても残念がっていました。


確かな強さを持っているのに、地上では誰にも負けない自信があるというのに…。

駆け上がりたいと夢見る空は、只、地上で眺めているだけでした…。


そうやって途方に暮れていた、ある日のこと―…“風”が、ライオンに話しかけてきました。



風「偉大なる金色(こんじき)の王よ。
  私が貴方の“翼”となりましょう。
  貴方の足が前へと進めば、お望み通り、この空を自由に飛び回れる。
  私は、そんな貴方の勇姿を見てみたい。
  さぁ、共にこの空で、誰よりも強く速い存在になるのです」



“風”の力強いその誘いに、ライオンは大喜びで承諾しました。

これで、夢見ていた空を駆け巡ることが出来るのですから。


“風”は、ライオンの“翼”となりました。

翼の生えたライオンは、空を飛ぶ為に、思い切り地面を蹴りました。

それからも、ずっとずっと足を止めずに、前へと進みました。


すると、本当に空を飛んだのです!

空の青さと、風の冷たさを体全身で感じたライオンは、1つの雄叫びを上げました。


嗚呼、コレが空を飛ぶということか。

コレが風を感じるということか。


ライオンは、体中から力が溢れてくるのを感じました。

その顔は、地上で空を仰ぎ見ていた時よりも、ずっとずっと生き生きとしてました。


青の道を走るライオンは、“風”に向かって―…今は己の“翼”となったソレに向かって、こう言いました。


「ありがとう、君のお蔭だ」と…。

「君がいたから、自分は飛べたのだ」と…。


“翼となった風”は、その言葉を受けて、優しく微笑みました。

とてもとても、幸せそうに笑いました。


ソレを感じ取った“彼”も、その勇ましい顔を珍しく緩めました。


既に交渉上のみの関係性はなくなり、確かな絆で結ばれた“2人”は、ずっと風の道を進み続けました。

晴れの日も、雨の日も、暑い日も、寒い日も。

誰よりも、誰よりも速く―…。


ライオンは、この日々がいつまでも続くと思っていました。

空を飛ぶことは勿論のこと、“彼女”と共に在(あ)ることは、特別であると同時に当たり前になりつつあったからです。


ライオンは“彼女”に言いました。

「これからもずっと一緒だ」と。


“翼となった風”は笑いました。

ソレは、とても美しい笑顔でした。

「勿論です」と、“彼女”は言いました。


風「勿論です、金色の王よ。
  私は、貴男(あなた)の翼となれて、この上なく幸せなのですから。
  王がこの空を勇ましく飛ぶ姿が、私は何よりも愛おしい。
  もう、“私がいなくとも”、貴男は己の力で空を飛べるでしょう。
  ええ、勿論、これからもずっと一緒ですとも。
  ですが、どうか貴男は、何があろうとも…ずっとこの風の道を走り続けてください」


“彼”は、“彼女”の言っていることが、よく分かりませんでした。

でも、ソレでも構わないと思いました。

「ずっと一緒だ」と言ったことに対して、「勿論だ」と返してくれたから、もう十分だったのでしょう。


ライオンは、再び前を向いて走り続けました。

誰よりも速く、誰よりも強く…。


ライオンは、後ろを振り返ることなく走り続けました。



“翼となった風”の羽が、少しずつボロボロになっていることなど知らずに―。






【プロローグ】 ―選ばれし王者―



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