短編スケッチ

□ホットな似たもの同士
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それは夏が過ぎて秋が深まる季節の夜だった。夏の騒がしく鳴く蝉からちいさく穏やかな音程を出す虫に変わっている。
ひだまり荘もまたそんな静かで穏やかな夜を迎えていた。
時刻は夜11時、もう少しで日付が変わる時間である。ひだまり荘の203号室、なずなの部屋である。

「ゆの先輩、ありがとうございます」
「いいんだよ、私なんかでよければ」

なずなはゆのに数学の勉強を教わっていた。友達の乃莉はやることがあって今日はできないと言われてしまった。それでなずなはお隣さんのゆのに教えてもらうことにしたのだった。

「とっても分かりやすかったです」
「そう、かなぁ」

ゆのは数学が苦手な方なので上手く教えることができたか心配みたいだった。それでもなずなはやっぱり先輩だけあって教え方は上手だったと思う。

「もう寝る時間だね」
「そうですね」

今日はゆのに勉強を教えてもらうだけでなくお泊りもしてもらうのだ。といってもなずなが提案したのではなくてゆのから提案してきたのだった。

「前もお泊りさせてもらったよね」
「あの時はゆの先輩大変でしたよね」

今では笑みがこぼれる話になっているが以前ゆのが自分の部屋のカギをトイレに流してしまったことがある。カギのスペアを大家さんに探してもらうことにしたが結果的に数日の間ゆのはひだまり荘のみんなにお世話になったのだ。
その時、なずなの部屋に初めてお泊りしに来たのである。

眠る準備はもう出来ていてなずなは明りを一番小さい豆電球だけ残して消した。ゆのとなずなは一緒のベッドに入る。

「あの時、久しぶりに帰ってホッとしたけどその日も宮ちゃんのところで泊らせてもらったんだよね」
「落ち着く暇もなかったですよね」

ゆののカギのスペアが見つかって部屋に入れたものの数日前のお味噌汁が残っていたことで部屋が悲惨な状態になっていたことをなずなはゆのから聞いていた。

「それにしてもこうやって誰かと眠るのっていいよね」
「はい、あたたかいですしホッとします」
「最初、このひだまり荘に来た時本当に人のぬくもりって大事なんだなって眠るとき思ったなぁ」

ゆのが横向きになってなずなの方を見る。なずなも湯の方を向く。二人はそれほど背が大きいわけでもない。ベッドに二人入ってもスペースがある。それでも二人の顔は近くくっつきそうになる。

「わたしもゆの先輩と同じで今でもたまに思います。これから寒くなるともっとそう思うんだろうな」
「その時はまた一緒にお泊りしようよ」

ゆのがにっこりとした笑顔がぼんやりと照らす豆電球の光で見える。なずなはそれを聞いて嬉しくてにっこりとする。

「こうやって身を寄せ合っていると姉妹みたいだね、なずなちゃん」
「はい、ゆのお姉ちゃんですね」

二人とも一人っ子のため姉妹に憧れていた。そっと二人は身を寄せ合う。どっちも温かい人のぬくもりを感じて眠りへと導かれていく。

「ゆの……先輩」
「なずな……ちゃん」

夜空は透き通るようにさわやかな風景を映しだしている。そんな外は寒そうだけれど二人はちっとも寒くなくて温かい気持ちでいっぱいの穏やかな眠りだった。

END
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