短編まどか☆マギカ

□ずっとあなたを想っている(杏子編)
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でっかいクリスマスツリーがある。杏子はさやかとそこで待ち合わせをしていた。いつもいい加減な杏子も今日は時間を守ってきた。さやかは時間より少し遅れてきたが特に気にするほどではない。
「しっかし、杏子があたしだけを誘うなんてめずらしい」
「ほむらもまどかもマミも暇じゃないみたいだし」
「まるであたしだけヒマみたいな言い方じゃない」
「悪かったよ、でも誘いに乗ってくれてありがとな」
「まあ、ね」
でっかいツリーの前にはカップルがたくさんいる。隣にいるさやかももしかしたらあの上条恭介といたかったかもしれない。そう思ったのは一瞬首を横に振って杏子はその想像を振り払う。ほむらには協力という意味合いで言ったがさやかとしかも二人っきりである。中々得られるチャンスではない。
「それでどこ行くの」
さやかが何気なく杏子に聞く。
「へ?」
「えっ誘っておいて行くとこ決まってないの」
「あ、ああ、ええと」
そういえばどうしようと杏子は今頃になって想った。
「まあ、杏子らしいけど」
「そうだなぁ」
「いいよ、とりあえずさあそこ入る?」
さやかが指差した場所はカラオケボックス。クリスマスだというのに何とも無機質な場所を指名するなと杏子は思った。とはいえ行く場所もないし当てもなく外を歩いていても寒いだけだし仕方ないかと杏子はさやかの提案に賛成した。
しかしさやかの提案は他の人も考えるようで結構混んでいた。
「どうしよう部屋取れるかな」
「ああ、出来れば7時30分までがいいな」
「ん?何かあんの?」
さやかに聞かれて杏子は曖昧にその答えを出した。
「ああ、さやかにも関係あるけどその時間になってからな」
「?」
結局1時間だけ借りることなった。杏子はゲームセンターをよく使うがカラオケボックスはあまり来ない。みんなと何度か来たことはある。
「二人でカラオケっていうのもね」
「さやかがここって言ったんだろ」
「まあね」
そして二人だけのカラオケが始まった。

30分後

事態あらぬ方向に向かっていた。
「あたしの方か上手い」
「いや、杏子はアレンジしすぎ」
「さやかは地味なんだよ」
「地味とは何だ地味とは、あの歌手はこういう感じなの」
「ということは地味な感じ」
「杏子こそ、甘ったるいほんわか曲ばっかでぜんぜんあってないよ」
「いいじゃん、さやかはこそラブソングばっかで」
「それこそ別にいいでしょ、深い感情があるでしょ」
「あたしにはどれも同じに聞こえるぞ」
「そんなのいつも食べ物のことしか考えてないからでしょうが」
「食べ物は大事だから当然さ」
それから段々話の内容が周りの人には理解できないものになっていった。
「だいたいさやかは突っ込みすぎなんだよ、この間の魔女だって結構危なかったんだぞ」
「あたしは癒しの力があるから大丈夫、杏子こそちゃんとあたしをサポートしてよ、近接なのあたしと杏子だけなんだし」
「さやかこそちゃんとサポートしろよ、あたしは中距離なんだそれに守りより攻撃に魔力注いでるから守りが薄いんだよ」
杏子とさやかがテーブルをはさんで顔を突き合わせるようにしていると突然電話が鳴った。さやかが出ると終了の時間だと言われた。
結果さやかは損した気分で金額を払って杏子と店を出た。寒さが余計に二人の身を圧迫する。
「杏子のせいだからね」
「さやかだろ」
まだ終わらないという感じで二人は顔を向き合わせて言い合いを続けようとした。しかし先に杏子がそれに終わりの一手を打った。
「はあ、せっかく誘ったのに何やってんだあたし」
「杏子?」
「わざわざさやかを寒い中引っ張り出しておいて無計画でさ、挙句の果てにカラオケでケンカとか、外出て寒い風に当ったらあたしホントバカって気付いたよ」
さやかは黙っていた。
「なんだろな、あたし」
「杏子……あんた」
小さい声でさやかは言う。杏子はもしかしたらさやかに悪いと思わせてしまったと感じた。
「さやか、あのな……」
ごめんと言おうとした時、さやかが小さく笑う。それが段々大きくなって最終的にはツボにハマったように笑い出した。
「何だよ、急に」
「だって、杏子がそんなにしんみりした表情して本気で謝ろうとしてんだもん、レアだよそれ」
「なんだよ、せっかく謝ろうと思ったのにさやかのバカ」
「ごめん、ごめん、確かにあたしにも非があるよ、カラオケだってあたしみたいに杏子は音楽をよく聞くわけじゃないしね、でもその表情はレアだよ、何か可愛い」
「可愛いってなんだよ」
杏子は恥ずかしくなった。自分は今どんな表情をしているのだろう。しかしそれが恥ずかしい理由ではないと思った。きっとさやかが自分を可愛いと言ってくれたからだろう。
「可愛いモンは可愛いのそれ写真撮ってもいいくらい」
「や、やめろよ」
「分かってるよ、杏子そのベンチに座ってちょっと待ってて」
言われた通りに杏子はクリスマスツリーの近くにあるベンチに座って待つことにした。
(可愛いってさやかのやつ)
さやかの行った方向を見る。さやかは何かの列に並んでいた。
そう言えばあんな派手なケンカは久しぶりだと杏子は感じた。最近はさやかと一緒にまどかやほむら、マミがいたから誰かが泊めてくれた。あんな派手にやらかしたのはまだ出会って間もないころ魔法少女として縄張り争いで戦った時以来かもしれない。しかし突然笑い出した時はびっくりした。ケンカが長引かなくて良かったには良かったけど本当にさやかは気にしていないのだろうか。
さやかが戻ってくると小さい袋を渡す。
「はい、あんた好きでしょ」
「これたい焼き」
「ここの、おいしいんだよ」
「中はあんこか」
「杏子だけにあんこって」
「まったく、ありがとな」
杏子はありがたくそのたいやきを受け取ると一口食べる。うん確かにおいしい、特にあんこが必要以上に甘くなく丁度いい。それに皮もかりっとした感触がまたいい。
「なんか、すっきりしたかな」
「なんで?」
「変な話、こんな派手なケンカいつ以来かなって、ケンカはよくないけどそれって結局気持ちのぶつけあい、杏子とは久しぶりにしたなって」
「悪かったな、何かこんなことに」
「だから、いいってあたしとしては杏子とはこんな関係なのかなって思ってる、まどかやほむらはこうにはならないから」
「そうだな、まどかは人のこと悪く言わないしほむらの場合はまず口で負けるからな」
「マミさんは先輩で怒らせると円環の理によって何かされそうだし」
杏子はたい焼きを食べながら頷く。
「実は本当気持を言えるのって杏子だけなのかも」
「あたしもさやかだけな気がするな」
二人は顔を見合わせる。さっきまでの怒った表情とは逆にちょっと照れくさそうな笑顔だった。
「これからも頼むよ」
「それはこっちのセリフだよ、さやか」
たい焼きを食べ終わると杏子は思い出したように広場にある時計に目をやる。
「さやか、空を見上げてみな」
「ん?なんで」
「いいから」
さやかは杏子に言われた通りに空を見上げる。すると空に何かが打ちあがっているのが分かる。花火のように細い光である。
「何あれ花火?」
「まあ見てな」
その光は花火のようにある程度まで空に上がると散らばる。するとそれは一つの絵になった。
「すごい!、あれあたしたち」
「そうさ、あたしにさやか、まどか、ほむら、マミさ」
「でも一体誰が?」
さやかが杏子の方を見て聞く。杏子はニッと笑って言う。
「それはこれから一緒に行けば分かるさ」
そう言って杏子はさやかの手を取って歩き出した。



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