普通少女☆さやかちゃん

□腹ペコ少女と謎の白い生き物
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そこは大きな部屋の一室だった。窓際に丸いテーブルと向かい合わせになっている椅子。部屋の真ん中には大きなベッドが二つ置かれている。そしてベッドの前には化粧台がありホテルのような豪華な作りとなっていた。
それもそのはずここはホテルの一室である。しかし電気が点いておらず昼間だと言うのに部屋の中は暗かった。
そして大きなベッドの一つに少女が寝転んでいた。しかしお昼寝やごろごろしているというよりは風邪を引いたようにぐったりしている感じだった。

「お腹……へった」

少女の名前は佐倉杏子。少し訳ありの彼女は家族もいない上に家もない。だから取り壊されていないホテルに勝手に住みついている。お金があまりもっていないため節約をしなければならない。食事の量を減らすという節約法を取っているのだが、彼女は良く食べる子であるためある意味地獄のような状況だった。

「ああ、お菓子とか転がってこないかなぁ」

そう言って顔を天井の方に向ける。こんなことしていても時間の無駄なのは分かっている。
ボーとしていると何やら気配を感じた。杏子はゆっくりと体を起こして部屋を見渡す。すると目の前に見たことない生き物がいた。
それはほぼ全身真っ白で尻尾と耳がやたらと長い生き物だった。さらに目の色が赤っぽい感じでホラー映画に出てきそうなクリーチャーみたいだった。

「なんだ?」
「やっと気付いてくれたよ、随分長い間ここにいたのに」

挙句の果てにその生き物は人間の同じように言語を話していた。杏子はより一層警戒する。

「ねぇボクと契約して魔法少女にならないかい。随分お腹が減っているようだけど魔法少女になれば君の願い事も叶えられるよ」

杏子はベッドから起き上がってその謎の生き物に近づく。全く表情を変えない。見た目はマスコットキャラみたいに可愛いがむしろそれが不気味だった。それにこの生き物は魔法少女にならないかと聞いてきた。いくら今流行りのアニメ文化とはいえ十代を超えた女の子にそんなことを言うのはずいぶんおかしい話だ。

「あいにくものすごい怪しい勧誘はお断りだよ。さ、とっと帰りな」
「ひどいなぁ、君の願い事が何でも一つ叶うのにかい?」
「あたしはそんな簡単な騙し文句は聞き飽きたんだ。いいかげんにしないと痛い目みるよ」

杏子はその白い生き物を睨みつける。ため息をついて尻尾をゆらりゆらりと動かす。

「分かったよ、今日のところは諦めるよ、でも佐倉杏子。君は絶対にこの運命からは逃れられないよ」

そう言って化粧台からぴょんと地面に飛び降りて部屋の入口に向かって歩いていく。

「おい」

ややあって杏子はその生き物に声をかける。振り返るのを見ながら杏子はそれの目の前に来てしゃがみこむ。

「名前くらいあるんだろ」
「ボクの名前はキュウべえ、どうだいキュートだろ」
「キュウべえ、ね、あんたさおいしいの?」
「おい、しい?」

杏子はキュウべえの体を触ってみる。あまりお肉があるようには感じない。

「食べられなさそう、いいよ帰りな」
「……そ、そうかい」

キュウべえは杏子に背を向けると再び入口に向かって歩き出す。さっきより歩くスピードが上がったように見えるのは気のせいだろうか。入口の扉は開いていなかったがキュウべえはすり抜けるように出て行ってしまった。

「はは、まいったねお腹減って幻覚でも見たかな?」

ひとまずここにいても食べるものはないので外に出て食料調達でもしようと杏子は考えて外出の支度を始めた。
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