短編+番外編

□拍手文その4
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『昼間は晴れてたのに…』

七夕か、と雲で隠れる夜空を見ながら呟く。
譜面の散らばる机とピアノ、それからベッドしかない元はルームシェア用の寮の部屋で、窓辺に座り詞を刻む。
コンコン、と扉が鳴って那月が顔を出す。

「起きてる?」

電気が消えてたから、と潜められた声に、起きてるよ、と返す。

「なにを見てるの?」
『…星、かな』
「雲がかかってるけど…」
『そうだね』

でも見える気がしない?
そう聞くと、そうですね、と返ってくる。

毎年7月7日の夜は雲が空を覆ってしまう。
丁度梅雨時期だからなのだろうが、雲に隠れて織姫と彦星はの二人が年に一度の逢瀬を楽しんでる、と夢を見た方がなんだか楽しいじゃないか、と教えてくれたのは目の前にいる那月だ。

『ねぇ那月ちゃん。俺達がまた、違う時間を過ごすようなことがあったら、』

どうする?と聞く前に那月の手が頭に触れる。

「僕がまた、見付けるよ」

でも、もう離れるのは嫌です。
少し寂しそうな顔で彼は言う。
…そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
近付いた那月に体を預けて微笑む。

『俺も、』

織姫と彦星は一夜限りだけど俺達はまだ繋がっていられるから。


『大好きだよ、那月』

そう言って目を閉じた。




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