二人の協奏曲
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仕事の締め切りが近いため、社長に許可をもらい、授業には出ずレコーディングルームに籠る。
人気のない実習棟。その最奥。
ひっそりと隠れるように配置してあるそのレコーディングルームは、社長がシャイニング事務所所属の人間が心置きなく使えるよう改装したものだ。
流石に龍也さんもこれには文句が言えなかったみたいで眉間に皺を寄せていた気がする。
別に普通のレコーディングルームを使っても良いんだけど。
『……ここはもう少しアップテンポに…、…こっちはアンダンテかな…』
書き起こした譜面とレコーディングしてみた曲を比べ続ける。
目立たず、でも印象は残るように。
音の強弱も配慮しつつ、別の譜面に書き連ねていく。
そしてそれをレコーディングしてみて、の繰り返し。
納得の行くまで、作業を繰り返す。
気付けば既に、昼休みの時間になっていた。
『…トキヤから?』
携帯を開けばメールが一件。
"体調でも悪いんですか?"
大方、俺が教室に居ないのと、それに関して龍也さんが何も触れなかったのだろう。
"締め切りが近いから作曲中"
そうトキヤに返して、レコーディングルームの鍵を閉め、食堂へ向かった。
「あ、アキちゃん!」
食堂に入るなり、聞き覚えの有りすぎる声に呼ばれた。
そちらを向けば、こっちにおいで、と那月が手を振っていた。
適当に頼んだ昼食を持ってそちらへ行けば赤系統の髪の人が三人と青髪の人、それから那月と、ついでに翔がいた。
『那月ちゃんのクラスメイト?』
聞けば笑顔で、はい、と返ってきた。
「一十木音也くんに聖川真斗くん、七海春歌さんに渋谷友千香さんです」
「ちなみに音也と聖川はトキヤとレンのルームメイトだぞ」
紹介され、翔が補足を加える。
トキヤと神宮寺の…。真逆で似た者同士か…。
『へぇ。…あ、俺は深水秋音、よろしく』
「よろしくお願いします」
「よろしく!ねぇ、あんたはアイドルコース?」
渋谷さん、だったかが聞いてきた。
『いや、作曲家コースだよ。』
「ふぅん。この子も作曲家コースなの」
と彼女が七海さんを指した。
『へぇ…』
……。この前屋上で歌ってた子の一人だね。
もう一人は一十木かな。
『改めて、よろしく』
その後昼御飯を食べた俺は教室へはいかず、またレコーディングルームに籠ったのでした。
翔が何か言ってた気がするが、気にしないことにする。
どうせ、"何で教室来ないんだ"とかなんだろうから。
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