二人の協奏曲
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『次は騎馬戦らしい』
「神宮寺さんと、真斗くんが参加しているみたいです」
陣地を見れば馬に乗った神宮寺と聖川。
──…馬?
よくあんなに学園に居たな…、じゃなくて、何で馬!?
あぁ、うん。
深くツッこんだら負けな気がする。
社長の説明曰く、川中島の合戦の再現らしく、片方の旗には"風林火山"。もう片方の旗には"義"が掲げられていた。
そして始まる普段と変わらない神宮寺の挑発。
「うわぁ、二人ともノリノリですねぇ」
『いや、あれ絶対素だろ』
「そうですか?」
勝負は一時間も続き、結局引き分けとなった。
川中島の合戦をモチーフにしたことがそもそもの間違いな気がする。
「次は僕の番ですねぇ」
『ん?もう障害物競争の時間?』
「はい。では行ってきます」
『いってらっしゃい。ここで見てるさ』
行く途中、那月は翔を見付けたのかそちらへ走っていった。
翔も障害物競争には出るみたいだから、翔が那月を引っ張っていくだろう。
スタートの合図があるまで俺は五線譜に視線を落としてペンを走らす。
しばらくして龍也さんの声が聞こえ、顔をあげた。
最初の障害物は"うんてい"
何て懐かしいものを。
"うんてい"をクリアした二人はそのまま次の障害物へ。
次は平均台なのだが、周りを火の輪が囲っている。
翔がものすごいスピードで渡りきるのと那月がゆっくりマイペースに渡りきるのはほぼ同時だった。
コンパスの差があるにしても同時ってのはすごいと思う。
平均台を渡りきれば次に待っているのはパン食いならぬ蟹食い競争。
…何で蟹を吊るした。
社長の考えることは理解できないな…。
最後は借り物競争。
…これって障害物?
『…那月…何の紙を引いたんだ』
那月がライオンを連れていた。
しかも社長の飼っているロドリゲスだし。
ちょっとしたアクシデントでロドリゲスが殺気立ってしまい、一度は社長が収めたものの、那月が近付くと那月にネコパンチならぬものを繰り出した。
それは那月の顔を掠め、眼鏡が落ちた。
『あ、まずい』
そう呟いたときには遅く、覚醒した砂月は地面に拳を叩き付けた。
『っう、わ!』
ぐらぐらと地面が割れ、ひび割れる。
いやいや、馬鹿力にも程があるでしょう。
社長が素早く砂月に眼鏡をかける。
少し放心している那月を他所に、翔が、今だ、とゴールへと走った。
「負けちゃいました」
戻ってくるなり那月はそう告げた。
言葉とは裏腹に目が笑っていたので、特に勝ち負けにはこだわってなかったもよう。
『お疲れ』
俺はそう言って那月に寄り掛かる。
『頬は平気?』
「はい。幸い、爪は出ていなかったので」
『そう、良かった』
それからしばらくして、体育祭は幕を閉じた。
…俺?
俺も出たよ、一応、綱引きに。
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