二人の協奏曲

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正直に言っても良いだろうか。
…飽きた。
多少曲調はアレンジされているものの、毎度同じ曲(…とはいってもSクラスとAクラスでは課題曲が違うが)を聴かされるのはキツイ。
それでも上手い人は上手いし、微妙な人は微妙だし。
流石にアイドルコースであるからか下手な人は居ないが…。

「合格、っと。じゃあ次」

次の人がブースに入るとレコーディングルームにトキヤが入ってくる。
これの次か。

「秋音。居ないと思ったら、こんなところにいたんですか」
『………』

正直声を出すのも億劫で、頷くだけに留める。

「…数時間見ない間に何があったんですか」
「聞いてやるなよ、一ノ瀬」

龍也さんも俺と同じなのか、ため息をつく。
そうこうしているうちに前の人が終わり、トキヤの番。

「よし、こっちは準備できたぞ、歌えるか?」

トキヤがブースに入り、龍也さんが指示を出す。
次にレコーディングルームに入ってきたのは一十木と七海さんで、ブース内のトキヤに注目している。

「はい。お願いします」
「よし、じゃあ、マイクに向かってクラスと名前を言え。その後、曲を流す。録り直しなしの一発勝負だから、気合入れろよ」
「はい。Sクラス、一ノ瀬トキヤです」

龍也さんが曲を流し、トキヤが歌う。
うん。
ピッチもリズムも正確。
言葉のバランスも悪くないし、テストとしては断トツだろう。
ただやっぱり、心が篭ってないというかなんというか。
上手いけど、何か違う。

「こいつ……こんなにスゴかったんだ……」

一十木が呟く。
凄い?譜面通り過ぎるこの歌が?

「まぁ、いいだろう。相変わらず、嫌味なまでに完璧だったぞ。ま、譜面通り過ぎて面白味にはかけるけどな。個人の感想はともかく、テストとしては文句なしの合格だ。上がっていいぞ」

龍也さんが一応OKをだす。
トキヤが、お疲れ様です、と言ってブースから出てきた。

「あいかわらず、可愛いげのない完璧な歌だな」
「……ありがとうございます」
「嫌味の通じんやつめ……」

トキヤが龍也さんを軽く流してこちらへ来る。


『お疲れ様』
「ありがとうございます。私の歌はどうでした?」
『…聞きたい?』
「はい」

言ったところで気付くかどうかは本人次第なんだけど。

『心に響かない』

これは飽きたとか、そんな感情を挟んでいない。
トキヤの歌に対する純粋な感想。

『今のままだと、壁は絶対に越えられない』

確信を持ってそう告げる。
それからトキヤは黙り込んでしまった。




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