二人の協奏曲
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「よし、次っ!一十木音也、ブースに入れ」
「……はい」
一十木はさっきのトキヤの歌に臆されたのか、レコーディングルームに入って来たときより暗い面持ちでブースへ入っていった。
トキヤも一十木の歌を聴いていこうと思ったのか、龍也さんに許可を取っていた。
そしてすぐ、レコーディングテストが始まった。
感情が焦っている。
そんな印象を受けた。
一十木は二週間後に再テストをすることになった。
「はぁ……」
「音也。お疲れ様です」
「あ、トキヤ…、秋音も…。二人とも聴いてたんだ……」
『俺は全員分聴いてるから』
「ええ、聴かせてもらいました。聞くに耐えない歌ですが。強いて言うなら味わい深いとでも言うんでしょうか。実にあなたらしい歌だったと思いますよ」
どうしてトキヤは一十木に突っかかるんだろうね。
まるで神宮寺みたいだ。
「声は出ていますが、歌になっていませんね。気持ちだけあっても、伝わらなければ意味がない」
その気持ちがトキヤには無いんだけどな。
この様子じゃ気付いてないっぽいし、俺の言葉も正しくは理解していないみたいだ。
龍也さんも同じらしく、まだ一十木の歌の方が"魂"とやらが篭っているとかなんとか。
そしてトキヤが自分も再テストを受けると言い、どちらの歌がすぐれているかを判断する、という流れになった。
一十木もそれを了承し、この場はそれで落ち着いた。
…歌に優劣なんて無いと思うんだけどな。
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