二人の協奏曲

□19
1ページ/1ページ



「ちょっとアキ!帰ってきてたなら言ってよ!!」

担当者に曲を渡した後、ふらふらと事務所を歩いていれば前から嶺二が走ってきた。
そのまま抱き着こうとして来た嶺二を避ければ勢いを殺しきれなかったのか、ズベシャァ、と効果音を立てて転んだ。
相変わらず古いなぁ。
プロ意識は尊敬するけどね。

「いてて…、酷いよーアキ、れいちゃん泣いちゃう!」
『勝手に泣いとけば?』
「ひっど!なんかぼくちんにだけ酷くなぁい?」
『気のせいだよ、…きっと』
「きっと!?ねぇ、今なんか"きっと"って聞こえたんだけど」
『嶺二もそろそろ年かな?あぁ、俺達の中じゃ、一番歳いってるからねぇ』
「まだ若いやい!!」

あはは、と笑いあう。
嶺二とのこの掛け合いは嫌いじゃない。

「ところで、ぼくのドラマの音楽、アキが担当するんだよね。正体隠して学園行ってるのに大丈夫なの?」
『基本俺は本名で活動してないからね、大丈夫じゃないかな。そろっと半年経つけど気付いてる人居ないし』

まぁトキヤは別だけど。

『そもそもそんなに作曲家名なんて皆見ないしね。重要なのは誰が歌っているかだし』
「むぅ、確かにそうだけどさぁ。君はそれで良いのかい?仮にも事務所一番の作曲家でしょ?知ってるんだよ。事務所に来てる作曲関係の仕事、一度アキに話を通されるんでしょ。そんなすごい作曲家なんだから夢くらい持ったって良いんじゃないの?」
『夢ならあるよ』
「え、あるの?」
『でも俺一人じゃ叶えられない。相手に同じところまで来て貰わないと。なんの奇跡か、彼はアイドルを目指しに学園に来たんだから』

そう。彼と会わない間、彼に何があったかは知らないけれど、彼はクラシックをやめてアイドルを目指しに来た。
今はパートナーじゃないけれど彼の実力ならシャイニング事務所に入れるだろう。
夢を叶えるのはそれからでも遅くない。

「…彼、ね」
『嶺二、嫉妬?』
「うん。…あーあ、ぼくのパートナーになってくれれば良いのに…」
『パートナーじゃなくても曲は作れるけど』
「パートナーになってほしかったの!」

む、っと口許を尖らせた後その表情は柔らかく笑み、これから撮影が入ってるんだ、と嶺二は走っていった。

「主題歌、久々にぼくが歌うんだからとびきりかっこいいの作ってよー!!」
『監督しだいだよ!』

後ろの方でズルッと滑った音がした気がした。




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ