小説:魔法少女リリカルふぇいと

□2章
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フェイト・テスタロッサは現在、一人(正確には使い魔と共に)地球にいた。
闇の書事件から早一月。怒涛のクリスマスと忙しかったお正月を越えて、今はずいぶんと落ち着いた。
同居人のリンディ、クロノ、エイミィは仕事で闇の書事件の重要参考人であるはやてや守護騎士達と本局に行っている。
事情聴取や今後の事やら色々とあるらしく、事件が終わった後でも忙しい。
大人の事情とは言え、大変である。

「ねぇねぇ、フェイト。暇なんだったら散歩に行こうよ〜」

子犬形態のアルフが尻尾を振りながらフェイトにすがり付いてくる。

「うん。そうだね。ちょうどなのはの所にも行かないといけない用事があったし」
「でもバルディッシュが手元に無いのはちょっと心配だね」
「そうだね。でも仕方が無いよ。バルディッシュも一度フルメンテしないと」

先の事件においてベルカ式カートリッジシステムを取り付けた愛機を思い浮かべる。彼女のデバイスであるバルディッシュは現在本局でメンテナンスを受けている。

カートリッジシステムを取り付けた際のデータの吸出しや、何かしらの異常が無いかどうか。またクリスマスの事件で膨大な魔力を送り込んだため、パーツのあちこちにガタが来ているのも見つかった。そのため数日かけてメンテナンスをしなければならなくなったのだ。

「大丈夫だよ、アルフ。バルディッシュが必要になるなんてことは早々ないから」
「そうだね。闇の書も無いんだし、そんな事にはならないよね」

フェイトの言葉にアルフも頷く。
だが後にこれが間違いだったと思い知らされる事になる。



「はぁ、はぁ、はぁ.......」

高町なのはは走っていた。全力で、息が切れるほどに。

(なのは、やっぱり一人じゃ危ないよ! せめて誰か...士郎さんか恭也さんに.....)
「ダメだよ、そんなの! 誰かに言ったらアリサちゃんとすずかちゃんが! それに相手は魔法を知ってるんだよ!」

彼女の肩には相棒のユーノが乗りかかり、彼女に苦言を呈したがなのはは取り合わなかった。彼女の手に握られた一通の手紙。そこにはこう書かれていた。

『君の友達は預かっている。この子達を無事に帰して欲しければデバイスを置いて一人で来い。もし1人で来なかったり、デバイスを持ってくるようなら二人の無事は保障しない。当然、管理局や他の誰かに言った場合も同様だ。』

こんな手紙と縛られ、猿轡をされている二人の写真が同封されていたのだ。
他にも管理局に連絡すればすぐにその通信を割り出せるなど、なのはを脅し、精神的に追い詰め、他の選択肢を取れないように誘導する言葉が書かれていた。
なのはは顔を青ざめさせ、その文章を読む。

精神的にある程度強く、聡明とは言ってもまだ九歳で小学生のなのはには他によい案を浮かべる事ができなかった。それはユーノも同じだ。
二人はこんな状況に陥ったことが無い。当然である。九歳の子供がそんな事態に遭遇する事など普通ならありえない。
しかもなのはの性格がさらに災いした。彼女は真っ直ぐだが自分で全て抱え込んでしまう。

幼少期の孤独な時間が、彼女を誰にも迷惑のかからない良い子であるようにと無意識のうちに誘導してしまう。誰かに頼る事をしない、出来なくなってしまったといって良い。
今回の件もそのせいで悪い方向へと向かおうとした。



「ふふふ。やはり友達想いでいい子だ。こちらの予想通り、組し易い」

ふふふと笑う男。その傍には薬で寝かされたアリサとすずかがいた。
彼は手にあの夜手に入れた魔道具を持ちながら高町なのはの到着を待つ。
これとあの子を使えば自分は世界を手に入れることが出来る。
あの子の事を知ったのは偶然だった。管理局のパソコンをハッキングして、自分の計画に最適な人間を探した。

魔力が高く、それでいて組し易い人物を。だが高ランク魔導師になればなるほど、管理局内での地位も高く、管理局の一員として活動していることが多い。そんな人物に接触する事は難しかった。

しかしそんな彼の目に留まったのが、この管理外世界にいたなのはであった。プレシア・テスタロッサ事件の記録を彼は見る機会があった。
彼自身が研究していたプロジェクトFにまつわる研究。それの成功体であるフェイト・テスタロッサの関わった案件と言う事で興味を持っていた。

現地協力者として資料に掲載されていた少女。まだ九歳にしてAAAランクの魔力を持つ少女。この子しかいないと判断し、何とか接触を持とうと考えた。
身辺調査を気づかれないようにしながら、彼は何とか情報を手に入れた。何度かあの子の家族に妨害され、現地で雇った探偵が数人再起不能にされたが問題ない。
あとはここに呼び寄せ、彼女からある物を奪えば良い。

「完璧だ。さあ、俺の目的のための礎になってもらうぞ!」

彼の思惑通りことは進む。彼の前になのはが現われた。

「はぁ、はぁ......。あなたが、アリサちゃんとすずかちゃんを......アリサちゃん、すすずかちゃん!」
「その通り。どうやら言われたとおり一人で来たようだね」

薬で眠らされている二人の少女の姿を確認して、なのはは声を上げるのに対して、男は満足そうに呟く。

「二人を返してください!」
「ああ、君が協力してくれたらね。ちなみに下手な事を考えないほうがいいよ。この二人には毒を飲ませてある」
「毒!?」
「ああ、今すぐに死ぬって物じゃないが、俺が解毒剤を飲まさないと段々と身体が弱っていって、数年後には死んでしまうものだ。解毒剤は今俺の手元には無い。だから俺に対して何かしたら、お友達は死んじゃうからそのつもりで」

その言葉になのはは拳を硬く握る。ここに来る途中、ユーノと分かれて彼には隠れて様子を見ながら、隙があれば二人を助けて欲しいとお願いした。
だがまるで二人のそんな考えを読んだかのように、男は先手を取って下手な行動を取れないようにした。
物陰で隠れているフェレット姿のユーノも唇をかみ締めている。

「じゃあこっちに来てくれるかい?」

なのはは言われたとおりに男の傍へと向かう。
手が届きそうな距離にまで近づくと、不意に男はそう言うと懐からナイフを取り出した。

「ひっ.......」

なのはの顔が恐怖で歪む。男の手に握られた白銀に煌く刃。
魔法と言う非常識を知っていても、こう言ったリアルな恐怖をチラつかせられては、さすがのなのはも怯えてしまう。
男はなのはの髪の毛を掴むとそのままナイフを振りかざした。

「いやぁぁぁぁぁぁっっ!」

なのはの絶叫が建物内に木霊した。



「........なのは?」

フェイトはアルフと一緒に散歩しながら友人であるなのはの家に向かおうとしていた。
そんな折、不意に彼女はなのはの叫び声を聞いたような気がした。

「どうしたんだい、フェイト?」
「.......わからない。今なのはの叫び声が聞こえたような気がした」
「なのはの叫び声? あたしの耳には何も聞こえなかったけど......。もしかしてなにかあったのかな?」
「わからない。念話をしてみるね」

デバイスが無くても念話程度は出来る。フェイトはなのはに向かって念話を送る。

『なのは。なのは。聞こえる?』

だが念話に対して、なのはは答えない。それがフェイトをより不安にさせる。

「応えないのかい?」
「うん。もしかして、なのはの身に何かあったのかも......」
「じゃあ急いで一度なのはの家に行った方がいいよ。今はバルディッシュも無い上に、リンディもクロノもいないんだ。何かあったら、すぐに連絡しないと」
「そうだね。とにかく一度なのはの家に.......」
「フェイト!」

その時、彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「ユーノ?」

呼ばれたほうを見ると、そこには首から待機中のレイジングハートを首から掲げたフェレット姿のユーノがいた。

「よ、よかった。フェイトに会えて。それよりも大変なんだ! なのはが、なのはが!」
「!? なのはがどうしたの!?」

ユーノの言葉にフェイトは狼狽しながらも、彼の話しに耳を傾けるのだった。

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