小説:魔法少女リリカルふぇいと

□5章
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ユーノから事情を聞いたフェイトは青ざめた顔をする。
彼はことの一部始終を見ていた。なのはが男に髪の毛を切られ、その髪の毛を元に恐ろしい数のなのはのコピーが生まれた事を。
またそれを持って、男が次元世界を征服しようとしている事を。

(なのは...)

心配そうに呟く。手にはユーノが首にかけていた、なのはのデバイスである待機状態のレイジングハートを握る。

「急いでクロノ達に連絡しないと!」

フェイトはなのはを助ける事もそうだが、自分ひとりでは限界があると判断し、助けを呼ぶ必要があると考えた。
愛機であるバルディッシュが手元に無いのだ。当然と言えば当然の判断である。
しかしユーノは首を横に振った。

「ダメなんだ。僕も管理局に連絡をしようとしたけどつながらなかった」

ユーノは最初から管理局へ連絡しておけばこんな事にならなかったと悔やんでいる。と言っても、下手に連絡を取れば人質になっているアリサとすずかにも危険が及んだために管理局への連絡を躊躇したことが、まさかこんな事になるなんて.......。

これはなのはコピー達が管理局がこの世界に来ないようにするためにしたことである。といっても、なのはコピーの襲撃で管理局もそれどころではないのだが。

「そんな.....。今はバルディッシュもいないから......」

もしここにバルディッシュがあれば、フェイトは一も二もなく飛び出して、なのは達を助けに向かっただろう。
しかしデバイスの無い今、魔導師のフェイトと言えども出来る事は限られている。

と、そんな折、不意に周辺を結界が包み込んだ。

「!」

いきなりのことにその場にいたフェイト、アルフ、ユーノの身体がこわばる。
直後、彼女達は飛来した。

「なのは!?」

高町なのはとそっくりな人物。だが数は十三人。誰もが白いバリアジャケットに身を包み、手にはレイジングハートそっくりなデバイスを持っている。

「フェイトちゃん」
「大人しく」
「私達に」
「付いてきて」

口々になのはの声色で喋るなのはコピー達。あまりの光景に三人は声に詰まる。しかし敵対の意思を持っている彼女達にフェイトの使い魔であるアルフは人型の形態を取って臨戦態勢に入る。

「フェイト! ここは逃げるんだ!」

アルフは主であるフェイトを逃がすために、なのはコピー達に戦いを挑んだ。

「邪魔」
「しないで」
「ほしいの」

十三人のうち、五人のなのはがアルフに向かい戦いを挑んだ。

「このっ!」

アルフは果敢に五人のなのはと戦う。飛行魔法で空に浮かび上がり、接近戦を挑む。なのはは遠距離型の砲撃戦タイプ。ならば接近戦に持ち込めば勝ち目はある。

しかし相手は一人ではない。五人もいるのだ。全員がデバイスを構え周囲にアクセルシューターを展開する。
一人でも厄介ななのはのアクセルシューターがその五倍。威力こそ若干劣るものの、アルフにとって見れば脅威でしかない。

さらには下を見れば、下のほうからも三人ほど、砲撃魔法を放ってきているではないか。しかも数人が牽制して時間を稼いでいる間に、何人かが必殺のディバインバスターのチャージを行っている。
悪夢でしかなかった。

(ちょっと待っておくれよ.....。これはいくらなんでも無いだろ)

涙が出てきそうだった。なのはの実力を知っているために、アルフは絶望するしかなかった。少しの間だが戦ってみてわかった。確かにこの連中はなのは程ではない。オリジナルに比べればワンランクほど能力は落ちるだろう。
だがなのはの実力は九歳とは言えないほどに高かったのだ。そう、主であるフェイトすら倒すほどに。

デバイスはまだカートリッジシステムも人格も搭載していないストレージ型。魔力もオリジナルには劣る。
しかしそんな弱体など些細な問題にしかならない。弱体化してもAAランク。戦術はなのはをベースにし、ある程度の応用も利かせている。
そして最も厄介なのが数。アルフが敵対しているのは八人。八人がそれぞれに連携を行い、牽制や誘導までこなし、必殺の一撃を狙っているのだ。

ディバインバスターが時間差でいくつも違う角度から襲ってくる。威力が弱いといっても、アルフの防御など簡単に貫く砲撃。
すべてに意識を向け、アルフは何とか踏ん張るがまだ一分も経っていないのに、弱音が漏れそうになってしまっていた。

地上でも残った五人のなのはがフェイトへと迫っていく。
じりじりと詰め寄られるフェイトはどうすればと考える。

「フェイト、君は逃げるんだ!」

人間形態に戻ったユーノは残る五人のなのはの足を止めようとした。

「ユーノ君」
「邪魔」
「しないで」
「欲しいの」
「死ぬ?」

あまりの光景にユーノも恐怖で足がすくんでしまった。なのははこんなに暗く笑っただろうか。
それでもこの事態を引き起こしてしまった一因は自分にもある。なら男としても自分は逃げるわけには行かない。

「うわぁぁぁっっ!!!」

叫びながら魔法を行使する。彼の得意な魔法は補助魔法。それにはバインド系も含まれる。
何とかバインドでなのはの足を止める。


(どうしよう。どうすれば.......)

フェイトは困惑していた。なのはのコピーが大量に襲ってきた。もしここにバルディッシュがいてくれれば、こんなにも不安にはならなかったはずなのに。
彼女の師であり家族であったリニスがフェイトのために作ってくれた、最高のパートナー。フェイトが振るう剣として、フェイトを支える杖としてリニスが持てるすべてを費やし作り上げた最高のデバイス。
でも今はいない。今はメンテナンスのために本局だ。

どうすれば、どうすればいい。

アルフもユーノも圧されている。いや、もう今にも倒されそうになっているではないか。
何も出来ない自分が悔しい。何の力も無い、自分の無力がこれほどまでに嫌だと思ったはない。
デバイス、デバイスさえあれば、アルフを、ユーノを、なのはを助けられるのに。

(なのは.....!)

心の中で親友の名を呼ぶ。

(フェイトちゃん)

「!」

不意に、自分の名前を呼ばれた気がした。手に力が篭る。その時、ハッと自分の手に握られている赤く輝く宝玉を見る。
レイジングハート。親友であるなのはの愛機。彼女を守り、支える魔導師の杖。

(なのは、私に力を貸して......!)

フェイトは親友に強く願った。キッと表情を引き締め、手に持ったレイジングハートに話しかける。

「お願い、レイジングハート。私に力を貸して。なのはを、みんなを助けるために」
『.....私は砲撃型のデバイスです。あなたの戦闘スタイルには合わないでしょう』
「それでも何とかしたい。なのはは私を助けてくれた。だから、今度は私がなのはを助ける番。お願い、レイジングハート!」

フェイトの想いが、フェイトの意思が、レイジングハートを揺らす。

『.....』

レイジングハートも主であるなのはを助けたかった。
目の前にいるなのはと自分のまがい物達。違う。主とその愛機である自分は、こんなものではない。主と自分を語る偽りの存在をレイジングハートも許せなかった。

だからこそ、主のために。自らの尊厳と存在理由のために、レイジングハートはフェイトに力を貸すことを決めた。

『私の後に続けて詠唱を。』
「レイジングハート!」

『風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に』
「風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に」

『不屈の心はこの胸に。』
「不屈の心はこの胸に。」

「『レイジングハート、セットアップ!』」

金色の魔力が光り輝き、フェイトとレイジングハートはここに盟約を結ぶ。
親友を、主を救うと言う目的のために。



服が開け、光となって消える。変わりに、魔力によって戦闘服であるバリアジャケットが編まれていく。
しかし、いつものフェイトのバリアジャケットではなかった。それはなのはが着ていたような白を基調としたバリアジャケット。
所々、フェイトが動きやすいようにすそが短くなり、機動性を重視したものとなっている。

レイジングハートの形状もほとんど変化は無いが、エクセリオンモードの形態を取り魔力刃を展開する。
雷を纏う魔導師の杖、レイジングハート・アナザーバージョン。

フェイトとレイジングハートが今、この時だけの力を発揮する。

「さあ、行こう、レイジングハート。なのはを、みんなを助けるために」
『イエス、アナザーマスター』

白き雷が闇を切り裂く。

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