薄桜鬼

□十五章
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ピ、ピ、ピ、という電子音が響く部屋の中に足を踏み入れた。







繋がらなくなった携帯を握りながら、そっとベッドに近づく。









「……由美」







たくさんの管が点けられていたが、今は包帯も少なくなっている。





由美が事故にあった日から、もう2年が過ぎた。





去年一度だけ危険な状態になったけど、それからは安定している。









だけど、まだ目を覚まさない。








どうして。









どうして繋がらないの?











何度も由美の携帯にかけているのに……。







病室に来るたびに携帯を思わず取り出してしまう。







繋がれと念じながら、今日も由美の携帯にコールする。







プルルルルル、プルルルルル、……








いつも通りコール音が何回もする。











……はずだった。





『ももももしもし?』








………………。






耳元に聞こえた声に一瞬戸惑う。








「……由美?」







『え、うん。そうだけど?』








確かに由美だ。最初に電話が繋がった時と変わらない声だ。







「体大丈夫??」






『体??特に怪我とかもなく過ごしてるよー。ちょっと熱出たけど』





「え!?それっていつ!?」





『確か……電話して、山南さんの変若水止めて、風間さんに町で会って……。あたりから数日後かな??』





「…………」





由美が熱を出した時、おそらく危険な状態になった辺りのはず。




向こうの時間の流れとこっちの流れが同じかはわからないけど、でも何故かそう思った。









………馬鹿でも風邪ひくのね



なんて由美がいつもと変わらない明るい声で話すから、そう口にしかけた。






「……あのね」






『うん?』






「信じられないかもしれないけど………」






今伝えておかなきゃ、次いつ繋がるかわからない。




もしかしたらこれが最後かもしれない。






由美に目を覚ましてほしい。







その一心で枯れそうな声を絞り出した。










「…………私の前にも由美がいるの」





















彼女を追い詰めてしまうとも知らずに……。
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