books

□dandy's talk 〜romantic journey番外編〜
2ページ/7ページ



御堂は、宿泊先の スイートルームのある階をフロアごと貸切にして予約していた。


快適性とセキュリティー面を考慮してのことだ。



各自、自分の気に入った部屋を寝室とし、一段落したら、兄弟達は自然とスイートルームの応接間に集まっていた。



御堂が、特注品のトランクを開き、収納されているティーセットを取り出し、人数分の紅茶を淹れる。



「出た! …カナメ専用、必殺 どこでもトランク。」

雅弥が茶化す。


この特注品のトランク、ティーセットだけではなく、コーヒーサーバーや茶道具、その他必要な磁器やカトラリー、小型の電気コンロやアルコールランプなども収納出来るように設計されている。
それ故、雅弥が茶化すのだが。



「…雅弥様。こちらのトランクは、西園寺家のものでございます。わたくしは、管理を任されているだけですよ。」


「だけどよ、…このトランク扱えるの、カナメだけだろ? …もう お前の物のようなものだろ…?」

「…収納にコツがあるだけですよ。…代々の執事が受け継いできたことです。」

雅弥と会話しながら、慣れた手つきでお茶とお茶受けをサーブする御堂。
そんな御堂からカップを受け取った瞬が、遠慮がちに 話す。


「…雅弥兄ちゃん。…他に 聞きたい事、あったよね…?」



「…! そうだよ、さっきの話しの続きだよ!
…シュウ兄、どういうことなんだ?」


瞬に水を向けられて、思い出した雅弥が 修一に問いかける。


「雅弥…。まゆさんは、外せない急用が出来てしまったんですよ。
…以前からのえるさんとの約束を反古にしないと いけないほどのね。 」


「…どういう ことなの…?」

修一の言葉に、首をかくん と傾げて問いかける瞬。


その問いに、雅季が答える。

「突発的な出来事で 吉事は、まず考えにくい。…大抵 前もって段取りするのが普通だから。
……親御さんと…鈴宮さんが 急いで東京に出向いた理由は、…凶事と考えられる。
…それも、とても近しい誰かの。」


「…そうなんだ……。」

納得する瞬。

「…それならそうと、はっきり言えばいいのにな、鈴宮も。」


「ばっ… マサヤ!」

雅弥の言葉に、つい裕次は大きい声を出してしまう。

「ユウ兄…! 今、バカって言っただろ…!!」


「 ! …寸止めにしたでしょー!?
…親友のえるちゃんにはともかく、初めて顔をあわせる俺達には…まゆちゃんも言いにくいよ。」


「…まぁ、そういうことです。初対面でもあり、えるさんの兄弟でもある……楽しみにしていた旅行の最中の僕達を気にかけて、まゆさんは言葉を濁したのですよ。」


取り繕うように話す裕次の言葉に、かぶせるように修一は言った。






「…える……。」

心配そうに、雅弥が呟く。瞬も、眉間にしわを寄せる。

「…えるお姉ちゃん、きっと今頃 そのこと聞いてるよね…
…泣いてないかな…?」


「…えるちゃん、優しいから…まゆちゃんのこと考えて…落ち込んで帰ってくるかもしれないね……。」

裕次も俯いて考え込む。


「えるお姉ちゃんに……何か…できないかな…?」





「えるの、この旅の一番の目的は鈴宮さんに会うことだった。それは、今日しか 叶わない……。
…あとは、どう過ごすかだよね…。」

冷静に、雅季が言う。


「……皆様…。
…いかがでしょう、皆様で お嬢様に、楽しい思い出を作って差し上げては。
…函館は、素晴らしい夜景で 有名です。
良い場所をご用意いたしますので…本日は、そちらで晩餐など…。」

御堂が、遠慮がちに提言する。




「そうだね、カナメさん。…俺達で、楽しい思い出作って…えるちゃんを元気づけよう!」

「そうですね。
…カナメくん、場所の方はお願いします。食事の方は…和洋折衷で…自由度の高い、立食式が良いでしょうか…。」


「えるの好きな、イカとサーモンの使った料理もな!」


「 …スイーツもだね。」



「…みんなで…えるお姉ちゃん迎えに行ったら……よろこんでくれるかなぁ…?」


「シュンくん、それ いいね…!」




とんとん拍子に、計画がまとまっていく。





ある程度 話がまとまった頃、
雅季が スッと部屋を出ていこうとした。


「 あっ、マサキ! …どこに行くの!?」



裕次の問いかけに、メガネを直しながら、雅季は答える。


「 …大体話がまとまったみたいだから、本屋にでも行こうかと。」

「…なんでだよ、雅季。」

「…えるから迎えの連絡あるまで、ここで 待ってるつもり?
東京の最終便は、日が暮れてからだよ…?
…明日からの計画だって、立てたいでしょう…!?
…心配しなくても、えるの迎えの時間には戻るから…。」








雅季が出て行って、ちょっとの沈黙のあと……


「僕も…ネットで調べモノを……。」


「あっ、俺も…!」


「…僕、絵描きたくなったな……。」


「俺、まわり散策してくる…!」




「かしこまりました。あとのことは、お任せ下さい。
…皆様、いってらっしゃいませ。」




静かに微笑む御堂を残して、兄弟達は応接間を後にした…。






次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ