虚空の道標

□第1話
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旅に出た。
崩れだした世界を、終わりまでこの瞳(め)に焼き付けるために…。



「…やっと町か」

夜通し歩き続けた足が悲鳴を上げている。

ぼろぼろになったマントが風に揺れて、まだ幼い顔を太陽が照らした。

「結局朝までかかったな」

一人ぽつんと呟いて、また歩き出したとき、


「―涙に揺れる水面(みなも)―」

「?」

町の方から、歌声が聞こえてきた。


「―薄暗い光が―命を唄って―」

透き通る歌には、悲しみと、寂しさが込められていた。

「―朽ち果てるその時まで―」

まるで世界の果てを想うような歌声に、誘われるように足を運ぶ。


その先には、一人の少女がいた。

「―この世界が滅んでも―時は流れ続けて―」

ひざまである長い茶髪をなびかせ、空に歌っている。

「―木々を枯らし―」

鳥たちが彼女の周りを囲んでいる。
その歌をみんなで聴いているように見えた。

「―芽吹き―空を映す―」

水のように汚れのない声が、彼女を表していた。
心に伝わる暖かさが心地いい。

「―小さくてもいい―遙かな祈り―」

歌いながら、少女はくるりと回転した。
スカートをはためかせて、すみれ色の瞳を輝かせていた。

「あら?」

ふと目があって、彼女は目を丸くする。

「あ…」

何となくばつが悪くて、思わず目をそらした。

少女は気にした様子もなく微笑む。

「おはようございます。旅の方ですか?」
「え…あぁ」
「かなりお疲れのようですね。よかったら、私のうちにお越しください」
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