†Only My Kiss†

□Oath.04
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「だいたいのことは分かった」
…いや、理解はしていないが。
とりあえず、ここにいるこいつは悪魔。
契約を交わして、残り1年の命となった。
簡単に信じられる話ではないだろう。
「あの後、あんたがあたしを家まで?」
「うん」
「そう、体操服に着替えさせてくれたのも?」
「う、うん」
彼の話、信じるには証拠が足りなすぎる。
芽実の記憶とは一致している。
でも、それを確定する証拠はない。
だいたい、殺されたのに生きてるとか、おかしすぎる。
それと、唯牙が言っていた「悪魔」とか「魂」とか…。
筋は通っている気がしないでもない。
が、これも証拠が無い。
彼の話は、どこか違う世界の物語のようだ。
「…証拠が無い」
「へ?」
唐突な言葉に、唯牙はきょとんとする。
「あたしが殺されたって言う証拠!あんたが悪魔だって証拠!!」
頭が混乱していて苛々する。
それをぶつけるように唯牙に投げて、大人げないにもほどがある。
「…っ、ごめん、なんか、あたし」
「証拠ならあるよ」
はっとして顔を上げると、唯牙は少し悲しそうに微笑んでいた。
証拠がある、そう言った唯牙は洗面所へと消えていく。
「……?」
しばらくして、彼は制服を持って帰ってきた。
「…それ、あたしの…」
そう、芽実の制服。
…血まみれになった制服だ。
「……」
芽実は震える手でそれに触れる。
血の臭いが気持ち悪くて酔いそうになる。
「これが、君が一度死んだ証拠。そして――」
彼は制服から手を放すと、目を閉じて、右眼だけ指で押さえた。
そして、左眼だけをゆっくりと開く。
「…なに、その眼…」
唯牙の左眼は、間違いなく紅く光っていた。
さっきまで茶色かった瞳が、紅色をしていた。
「これが、僕が悪魔だって証拠」
彼が指を放して右眼を開けると、眼の色は元に戻った。
どうやら、左眼だけ開けるとそんな色になるらしい。
それだけではなく、唯牙は着ているシャツのボタンを外し始める。
「……?」
ゆっくりとした動作に、芽実はいつのまにか釘付けになっていた。
まるでマジシャンの手品に夢中になる子供のように。
唯牙は半分ぐらいボタンを外したところで、肩を出し、シャツを腰あたりまで下ろす。
そして、一度だけ深呼吸すると、
「…っ」
少し苦しそうに前屈みになる。
すると、その背中から、黒い翼が姿を現した。
大きく伸びるように広がった翼に、朝日が差し込む。
「…ふぅ」
一息吐いて、唯牙は芽実に背を向けた。
「羽…?」
その翼は、悪魔というより、黒い天使の羽。
美しい鳥のような、漆黒の羽。
「触って、いいよ」
その言葉に誘われるまま、芽実は羽に触れる。
暖かくて、柔らかい羽。

…こんなんじゃ、信じる他ないじゃんか。

緊張がほどけていく。
悪夢のような夜、久しぶりに叫んだ朝。
紅い瞳に、黒い羽。
全部本物だって、信じるしかない。

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