Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~
□第六章
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血の匂いが漂う部屋。
風通しに窓を開けても、いまいち空気が澄まない。
「……煌…」
黎斗と戦ったあの日から、3日。
煌は眠ったまま、目を覚まさない。
足や目の傷は透留が全て手当てした。
熱を持っていた体も、もう大分落ち着いてきた。
だけど時折、ひどくうなされている。
起こそうと揺さぶってみるも、やはり眠ったまま…。
「───天那ちゃん」
天那の後ろの襖が開いて、透留が姿を表した。
「透留さん…」
あの日、煌を引きずって帰ってきた天那たちを見て、彼が驚いたのは一瞬だけだった。
うろたえることなく、すぐに煌の手当てをしてくれた。
「煌のこと、知ってたんですよね」
きっと透留は、煌が人斬りであることをずっと前から知っていたのだろう。
「…よく、怪我をして帰ってきたからな」
人斬りが街を徘徊しているこの時代この場所で。
散歩に出かけ、刀傷を負ってくる煌。
よく考えれば、気づかない方がおかしい。
「お互い、知ってて絶対口に出さなかったんだ」
眠る煌を見つめて、透留は儚げに微笑む。
───そんな共有の仕方もあるんだ…。
天那は少し、自分が恥ずかしくなった。
今まで天那は、煌に人殺しをやめろとしつこく言ってきた。
きっと、その度に彼の傷を抉ってきたのだろう。
今更気づいた自分が、恥ずかしい。
「…天那ちゃんがそんな顔することないさ」
透留は天那の頭にぽんと手をおいた。
「俺には、こいつを止められなかったけどさ」
…心の底では、煌のことを怖がっていたんだと思う。
人斬りの機嫌を損ねれば、どうなるか分からない。
そんな恐怖を、抱いていたんだと思う。
「…天那ちゃんならきっと、煌を救ってくれる」
言いながら、透留は自身に呆れた。
自分にはできないから、他人任せ。
嫌気が差すけど、きっと───
───彼女なら。
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