Tactics~また逢おう,君が覚えていなくても~
□第七章
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その日は、世界一面雪景色の朝だった。
真っ白な深雪に、真っ白な雪花が降り積もる。
更に、更に深く、白く。
染まっていく───。
「行ってくる」
「気をつけてね」
雪の中、番傘をさした煌が買い出しに出かけていく。
「……」
まだ、煌の傷は全然治り切っていない。
右目から頬にかけて巻かれた包帯。
時々痒そうに触れては、天那に怒られている。
「──天那ちゃん」
後ろから、女の人に声をかけられた。
天那が振り向くと、雪の中に珠奈がいた。
「珠奈ちゃん!」
「ここにいたんだね」
珠奈はそう言って笑うけれど、どこか寂しそうにしている。
「黎斗…見つかった?」
訊ねると、珠奈は俯きがちに頷いた。
「話したら、里には帰らないって」
「煌も、同じこと言ってた」
空から儚く、雪は舞い散る。
天那は肌寒さに肩を震わせた。
「あ、じゃああたしはそろそろ行くね」
「煌には会わなくていいの?」
「うん、用事の途中に寄っただけだから」
そう言い残し、珠奈は踵を返して走り出した。
人目を避けるように、横道に逸れてすぐ見えなくなる。
珠奈のもどかしさは、天那にも感じ取れた。
ただ生きて欲しいだけなのに、うまくいかない。
きっと二人は、選ぶだろう。
互いに逃げず向かい合うだろう。
煌だって、ずっと立ち向かってきた。
──もうすぐ、終わる。
何故だか、そんな気がした。
勝てば生き、負ければ死ぬ───。
「──?」
不意にどこからか視線を感じ、天那は辺りを見回した。
透留の店の客は誰も天那を見ていない。
ということは、視線は外からだ。
「っ……」
天那は透留に見つからないように店を離れた。
すると、少し離れた建物の影から浪士が数人、姿を現す。
距離にして50メートル、明らかな殺意の視線。
天那が逃げるように走り出すと、すぐに追いかけてきた。
おそらく黎斗が寄越した殺し屋の関係者だろう。
恐怖に足が震えた。
煌はいつも、こんな風に戦っているのだろうか。
透留を巻き込まないよう、いつもひとりで───。
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