*Short Story*

□君は紅の季節
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次の日、天馬はまた紅葉の樹へと赴いた。

「あ、こんにちは」

なんとなく、彼女がいる気がして。

「……」

少しの安堵感。

「来てくれるといいなと、思っていました」
「来るも何も、ここは俺の家の敷地だ」
「そうでしたね。では、お邪魔します」
「……」

今日も、天馬たちの周りを紅葉は踊る。

踏みしめた紅(くれない)に、無意識に目を落とした。

「…絨毯(じゅうたん)のようですね」

天馬の目線を追って、夕蘭が呟く。

「そうだな」

そう考えると、気が楽になる気がした。




次の日も、その次の日も。

天馬は紅葉の中へと足を運んだ。

夕蘭は毎日、そこにいた。


他愛ない話も、続かない言葉も。

彼女の隣なら、楽しいと思えた。
一日の中の短い時間を、一瞬で費やしてしまうほどに。



そんなある日。

「……」

紅葉の樹へ赴いても、夕蘭の姿が無かった。

天馬は樹の根元に腰掛ける。

「……絨毯、か」

まるで地面に座っているとは思えない柔らかさ。
何層にもなった紅葉たちが、太陽の光で暖かくなっていた。


見上げた空には、いつも通り紅葉が舞う。

うとうとし始めた天馬は、いつの間にか眠りに落ちていた。


「…あらあら、お昼寝ですか?」



──秋は、短い。

───紅葉は、すぐに散ってしまう。

もし、季節が変わって冬になっても。

…夕蘭は、ここにいてくれるだろうか。

消えず、いつものように───。



「……ん…」

重いまぶたを開くと、目に飛び込んできたのは紅い世界。

「おはようございます」

そして、微笑む夕蘭の顔。

「よく寝ていましたね、普段きちんと寝ていないのですか?」
「……」

はっきりしない意識の中、天馬は寝返りを打つ。

「……?」

妙に頭を乗せている部分だけ紅葉が柔らかい。

…違う、紅葉じゃない。
この感触は…。

「そろそろ帰らないと、日が落ちてしまいますよ」

気付くと、夕蘭の膝に頭が乗っていた。

彼女の細い指が、そっと頭を撫でている。

「…いた」

飛び廻る蝶を捕まえるように、なびく夕蘭の髪に触れた。

「いますよ」

その手をそっと握り、優しい声を紡ぐ。

「…ねぇ、天馬さん」

夕蘭の声音が、少し曇っていた。

「明日も…ここへ来てくれますか?」
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